法務担当者のための『働き方改革』の解説(34)
テレワーク(3)
TMI総合法律事務所
弁護士 海 野 圭一朗
XVIII テレワーク
3 テレワーク導入に伴う法的諸課題
(2) セキュリティ対策、情報管理(漏洩対策)の検討
テレワークでは、(1) アで述べたような適切な労働時間管理を可能とするための情報通信環境の整備・運用が重要となるほか、通常のオフィスから離れた場所で各種の業務上の情報・データを扱うがゆえに情報漏洩のリスクが高まることから、それを踏まえた情報通信システムそれ自体のセキュリティ対策、情報管理の検討が不可欠である。
具体的には、使用可能な情報通信機器(PC、携帯電話等)その他の機器及びその保管・管理方法(パスワード管理、休憩中の設定なども含む。)、紙媒体やデータ等の記録媒体の保管・管理方法について定めた上で、事故等が発生した場合の対応等についても取り決めておくべきである。
とりわけ、私用PCを始めとする私用(自宅等)の機器ないし情報回線等からの情報漏洩リスクや、運搬時を含む各種媒体の紛失・盗難リスクが懸念されるため、私用PC等の利用の可否(許容する場合のセキュリティ対策等に係る条件、遵守・禁止事項)、媒体の管理(持ち出し範囲・管理方法、データ暗号化、定期的な点検等)について十分検討の上定めることが望ましい。
なお、セキュリティルールの策定にあたっては、総務省のガイドライン[1]が参考になる。
(3) 就業規則等の整備
テレワークを命じられるようにするには、労働基準法第89条、第106条に従って、就業規則等においてその旨及びその労働時間管理、備品の取扱い、情報通信機器、通信回線、文具・備品、水道光熱費等の費用負担その他のルール等を定め、これを周知する必要がある。
また、(1) イ~エで挙げたような特殊な労働時間制を採用する場合には、就業規則等においてその旨を定める必要があるほか、新規採用者に適用するには、雇入れ時にその旨(勤務場所等)を明示する必要がある。
具体的には、就業規則等において、以下のような事項を定めておくべきと考えられる。なお、実際上は、「在宅勤務規程」などといったように、「就業規則」本体とは別の付属規程として策定する方が整備しやすいことが多いと思われる。
- • テレワーク制度の目的
- • テレワーク対象者の服務規律
- • 対象者の範囲・要件、対象業務(申請・承認手続等)
- • 労働時間の管理方法、適用される労働時間制
- • 給与等(通勤手当や在宅勤務手当等)
- • 情報通信機器等及び通信回線の貸与等及び費用負担
- • 教育訓練
- • 安全衛生、災害補償
テレワーク制度の目的については、これを明確化して従業員及び会社の間で共有することで、効率的かつ円滑な制度運用が可能になると考えられる。その他の項目も、この目的を念頭に置きつつ検討すべきである。
対象者、要件、対象業務については、導入当初は、例えば、育児・介護を行っている従業員や一定以上の勤続年数(あるいは人事評価)を有する者のみに限定したり、在宅勤務での遂行が可能な特定の業務のみに限定したりすることが考えられる。なお、実際に在宅勤務を行うか否かは、ガイドライン[2]上、本人の意思により決定することが推奨されており、従業員からの申請を承認するという手続が想定される。
給与等については、基本給は、在社時と同様に支払うこととしている企業が多いようであるが、通勤手当は、在宅勤務の頻度に応じて実費を支払うのか、定期代として一定額を支給するのか等につき要検討であろう。
情報通信機器等については、情報通信機器や作業用品、光熱費等を従業員の負担とする場合にはその旨を明確に定める必要がある。この点、企業側が負担することとする場合も、その計算が困難であることから、一定の方法で算定した費用を「在宅勤務手当」などとして支払うケースもある。
教育訓練については、在宅勤務制度の円滑な運用のため、テレワーク労働者に対して、テレワークの目的及び必要性を共有した上で、勤怠管理の方法、システムやツールの使用方法等について説明する社内研修等を実施することが推奨されるところであり、これもその旨を定めておく必要があろう。
安全衛生、災害補償については、企業側からすると、テレワーク対象者の職場環境の把握が容易でないことから、必要な安全衛生教育を行いつつ、就業規則等に一定の作業環境に関するルールを定め、労働者と協議・検討していくことが望ましい。この点、自宅であっても、照明・採光、換気、騒音等の衛生環境に関し、ガイドライン[3]の定める基準と同等となるよう、テレワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましいとされているため、これに準じたルールを定めておくことが考えられる。なお、特に在宅勤務の場合は、ダラダラと長時間労働になりやすく、さらに、face to face ではないがゆえに労働者の体調不良等を見逃しやすいため、労働状況(長時間労働)や体調について把握できるようなプロセス(定期的/随時の自己申告、面談・指導等)を設けることも有用であろう。
災害補償については、自宅その他の場所での災害であっても、業務起因性が認められ得る一方、逆に、業務とは無関係の私的行為が原因である場合には業務上の災害とは認められないため、その点を適用対象者の理解を得た上で、できる限りトラブルを未然に防止する観点から、自宅その他の物理的な就業範囲・状況を事前に報告させる(間取り図等の提出)、といった対応も考えられる。
以上のほか、人事評価については、テレワーク適用対象者と非対象者との間で不公平(感)が生じないよう、各人に丁寧に説明しておくなど、運用面で配慮を要すると考えられる。
以 上
[1] 総務省「テレワークセキュリティガイドライン」(第4版)https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/05/000545372.pdf
[2] 厚生労働省「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/03/h0305-1.html
[3] 厚生労働省「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/05/0000184703.pdf