◇SH2765◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第60回) 齋藤憲道(2019/09/09)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

5. 知的財産の管理

(1) 知的財産を活用してビジネスを作る

③ システムを基盤とするビジネス

1) 流通・販売システム

 販売チャンネルの構築においては、知的財産(商標権、経営管理システム=営業秘密)が重要な役割を果たす例が多い。本項では、その代表例として、フランチャイズ・システムを挙げる。

  1. (注) チェーンストア(同一資本グループ)の事業形態も、フランチャイズと似ている。

〔フランチャイズ・システム[1]  

 フランチャイズ・システムでは、本部と加盟者が「フランチャイズ契約」を締結し、この契約に基づいて、契約当事者が「一つの企業の本店と支店の外観」を備えて事業を行う。

  1. ・ フランチャイザー(本部)は、加盟者に対して、特定の商標・商号等を使用する権利を与えるとともに、加盟者の物品販売・サービス提供その他の事業・経営について、統一的な方法で統制・指導・援助を行う(ノウハウを提供する)。
    〔本部が提供するノウハウの例〕仕入先、仕入方法、コンピュータ管理システムの使用、広告等の販促活動
  2. ・ この対価として、加盟者が本部に金銭(加盟金=ロイヤリティ)を支払う。

2) 大規模制御システム

 例 発電・送電・配電、上下水道、交通(自動車、港湾、鉄道、航空)制御、大規模建設、通信

  1. ・ 大規模な制御システム(インフラ等)を構築するためには、多岐にわたるノウハウを必要とする。
    ノウハウの例: 各種の機器の設計・製造・調達、建築、土木、測量、計測、都市設計、水質浄化、環境、情報処理、通信、施工、資材調達、完成・引渡し後のメンテナンス 他
  2. ・ ノウハウを中核にするビジネスの内容は、事業に精通した者が中心になって、契約で具体的に決める。
    上記のノウハウの例の中には受注者(売り手)が営業秘密として管理している情報が含まれることが多く、それを発注者(買い手)に開示・提供する場合は、秘密管理が維持されるようにする。
    (注) 長期間の大規模プロジェクト契約では、リスク対応条項(「不可抗力条項 force majeure clause」を含む)が重要になる。

3) インターネットを介して行う電子商取引・情報財取引の基盤になるシステム

 インターネットの技術革新と普及に伴い、これを介して行うB to C、B to B、C to C等の様々な取引の仕組みが生まれている。この分野は技術と取引形態の変化が激しいために、各国で法整備が追い付かず、企業は常に一定のリスクを抱えながら新規事業を創出し、運営している。

 企業としては、経営(顧客満足を含む)に障害を与えるリスクをできるだけ事前に抽出し、それに適切な対策を行った上で事業を行いたい。新しい分野だけに様々な問題が発生し得るが、想定外の事象も含めて、日々、迅速に対策・改善を積み重ねることが重要である。

 この分野の留意点については、次を参照されたい。

  1. ・ 本稿 第3章 第1部 4(2)「電子決済に対応する」
  2. ・「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」平成30年(2018年)7月 経済産業省

④ 多国籍企業が無形資産を用いて「税引後利益」を最大にするビジネス・モデル

 2008 年のリーマン・ショック後、先進諸国の税収が落ち込んで財政が悪化する中で、世界の多くの多国籍企業が低税率国(いわゆるタックス・ヘイブンを含む)に知財のライセンス等の業務を行うIBC(International Business Company)を設立し、租税回避を行って蓄財していることが大きな社会・政治問題になった。

 多国籍企業が、低税率国に多くの利益が残るようにグループ内の取引価格を恣意的に決めることは、多くの国で移転価格税制により規制されてきた。

 ところが、部材・製品・工場等の有形資産や人的資産(労働力)と比べて移動し易い知財等の無形資産を利用して巨額の利益が低税率国に蓄積されている実態が明らかになったのである。

 多国籍企業が知財等の無形資産を用いて大規模に利益移転(租税回避の目的)する手法として、次の3つの方法が知られている[2]

  1. 1  無形資産の全ての権利を「譲渡」する。
    ただし、譲渡益が発生して課税される場合(=欠損金で相殺できない場合)、この方法は採用されない。
  2. 2 「ライセンス契約」を結び、一定期間、既存の知財(全ての権利、又は、一部の権利)の使用を許諾する。
    この契約対象の既存知財を利用して低税率国で新規の知財を開発すると、その新規知財から得られた所得には低税率が適用され、企業に大きな税引後利益が残る。
    なお、最初に締結した既存知財のライセンス契約自体からは、直接的な節税効果は生じない。
    (理由) 既存知財のライセンス料を高税率国に支払うと、その高税率国で、所得に対して高税率が課される。
  3. 3 「コスト・シェアリング契約」(米国とEUの多くの企業が採用する方法)
    新規の無形資産を、複数の者が共同して開発するための費用分担契約である。この契約では、主に次の事項が規定される。
    ・新規の無形資産(=知財等の成果物)を開発するための共同プロジェクトであること。
    ・プロジェクト参加者は各自の経営資源を用いてプロジェクトに貢献し、開発コストを分担すること。
    ・知財等の成果物に関する権利・利得は、各参加者が貢献の割合に応じて所有(共有等)すること。
    (注) 低税率国の参加者は、成果物から得られる所得に対する税率が低く、大きな税引後利益を取得できる。

(参考) 移転価格税制で定義されている「無形資産」の内訳[3]

 日本の定義[4]による「無形資産」の主要素を次に挙げる。(日本、米国、OECDの定義は、同様である[5]。)

  1. ・ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)
  2. ・ 特許権、実用新案権、意匠権、商標権
  3. ・ 特許権、実用新案権、意匠権及び商標権の実施権等
  4. ・ 生産その他業務に関し繰り返し使用し得るまでに形成された創作
    (独自の考案又は方法を用いた生産についての方式、これに準じる秘訣、秘伝その他特別に技術的価値を有する知識及び意匠等をいい、ノウハウや機械、設備等の設計及び図面等に化体された生産方式、デザインを含む。)
  5. ・ 法人税法施行令13条8号(減価償却資産の範囲)に規定する無形固定資産(特許権、実用新案権、意匠権、商標権を除く。)
    〔13条8号の具体的な資産〕
    鉱業権、漁業権(入漁権を含む)、ダム使用権、水利権、ソフトウェア、育成者権、公共施設等運営権、営業権、専用側線利用権、鉄道軌道連絡通行施設利用権、電気ガス供給施設利用権、水道施設利用権、工業用水道施設利用権、電気通信施設利用権
  6. ・ 顧客リスト、販売網
  7. ・ 上記のほか、重要な価値のあるもの    

 2012 年にOECD租税委員会が、多国籍企業の租税回避を防ぐ目的でBEPS[6](税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2015年に「BEPS行動計画」の最終報告書を取りまとめてG20アンタルヤ・サミット(トルコ)等に報告した。これ以降、各国で課税対策が進められている。

 BEPS行動計画の「行動13(多国籍企業の企業情報の文書化)」では、関係国の税務当局が、研究開発・製造・販売等の機能を世界の最適な国・地域に配置して資源配分している多国籍企業の全体像を把握するのに必要な情報の報告を、各国共通様式により行うべきことを求めている。

 これにより、低税率で税制上の恩典が多い国に地域本社を置く会社や、海外に「知財等の無形資産」を移転してライセンス料を授受している会社は、その機能や取引価格について、関係国の税務当局から「BEPS行動計画」に基づいて、(1)グループの各国別の収入等を一覧にする「国別報告書」、(2)グループ全体に共通する基本情報を記載する「マスターファイル(事業概況報告書)」、(3)各国拠点の関連取引の独立企業間価格を算定する「ローカルファイル」の作成・提出を求められる。

 多国籍企業にあっては、複数国に存在する事業拠点(販売、製造、開発等)の間の取引において移転価格問題が生じないグループ内取引制度を設け、それを遵守する必要がある。

  1. (注) 日本では2016年度(平成28年度)の税制改正において 、報告義務がある法人がこの3種類の文書[7]を作成して当局に提出する制度が整備された。

 


[1] 「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」公正取引委員会 平成23年(2011年)6月23日改正 に詳しい説明がある。

[2] PwC&経済産業省「平成24年(2012年)度アジア拠点化立地推進調査報告書」127~143頁

[3] 日本・国税庁「移転価格事務運営要領 別冊・移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」53頁より

[4] 租税特別措置法通達(法令解釈通達)66の4(3)-3(注)1

[5] 「米国財務省規則§1.482-4(b)」、「OECD移転価格ガイドライン第6章パラグラフ6.2 ~ パラグラフ6.5」

[6] Base Erosion and Profit Shiftingの略。

[7] 国別報告事項、事業概況報告事項(マスターファイル)、ローカルファイル

 

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