◇SH2626◇中国:商標法の改正及び先駆け出願問題への対応 鹿はせる(2019/06/25)

未分類

中国:商標法の改正及び先駆け出願問題への対応

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿 は せ る

 

 中国において商標登録の出願は先願主義が取られており、中国進出に進出する日系企業はしばしば、自身の商標が既に中国で他者によって出願されており、中国で合法的に使用できないという問題に直面する。今年5月の改元直後にも、中国で「令和」を含む商標が1,000件以上申請されたという報道が見られたところである。このように、一部業者があらかじめ使用が予想される商標を大量出願して、本来の権利者が使用しようとする際に買取を要求する、いわゆる先駆け出願問題は、深刻さを増しており、当該問題への対応を主な目的とする商標法改正が、今年4月23日に全人代の常務委員会で可決され、11月1日から施行される予定である。以下、主な改正点を概観する。

 

1 使用目的に欠ける悪意の商標登録出願の却下及びエージェントの責任

 現行商標法4条1項は「自然人、法人又はその他の組織がその生産経営において、商品又は役務につき商標専用権を取得する必要がある場合は、商標局に商標登録の出願を行うものとする」と定めているところ、改正法においてはこの後に「使用を目的としない悪意の商標登録出願は、却下するものとする」の一文が加わった。この「使用を目的としない悪意の商標登録出願」は、登録拒否理由となるだけでなく、当該登録の異議理由及び無効理由としても明文化された(33条、44条)。

 また、中国において商標登録出願はエージェントを通じて行うのが一般的であるが、今回の改正法では、エージェントは、依頼された商標登録出願について、使用を目的としない悪意の出願であること、又は他者の権利を侵害するものであることを知り又は知りうべき場合においては、当該出願依頼を受任してはならないこと(19条3項)、違反した場合には行政罰の対象となること(68条1項3号)がそれぞれ新たに規定された。

 

2 「使用目的に欠ける悪意の商標登録出願」の解釈問題

 上記法改正がなされたものの、出願に際し現に当該商標を使用していることまでは求められていないため、今後商標局がどのように主観的な使用目的及び悪意の有無を判断するかが問題となる。この点は今後の実務に委ねられるが、注目すべきは、本改正法可決の翌日に、北京市高等人民法院が「商標の授権及び権利確認行政案件に関する審理ガイドライン」(原文:北京市高级人民法院商标授权确权行政案件审理指南)を公表しており、その中で商標法4条の解釈について以下のように述べている。

  1. 7.1 商標申請者において真実に使用する意図が明らかに欠けており、かつ下記の状況のいずれかに該当する場合には、商標法第4条の規定に反するものと認定できる。

    1. ⑴ 一定の知名度又は比較的顕著と認められる特徴を有する商標の主体と異なる対象について、同一又は類似する商標を出願する場合であり、かつ状況が深刻と認められるもの
    2. ⑵ 一定の知名度又は比較的顕著と認められる特徴を有する商標の主体と同一の対象について、同一又は類似する商標を出願する場合であり、かつ状況が深刻と認められるもの
    3. ⑶ 他者の商標以外の商業標識と同一又は類似する商標を出願する場合で、かつ状況が深刻と認められるもの
    4. ⑷ 一定の知名度を有する知名、景勝地名称、建築物名称等と同一又は類似する商標を出願する場合で、かつ状況が深刻と認められるもの
    5. ⑸ 大量に商標を出願し、かつ正当な理由に欠ける場合

 上記の商標出願者については、真実の使用意図が存在すると主張する場合であっても、証拠に基づき証明できない場合には、これを認めないものとする。

 上記ガイドラインは商標局の判断を法的に拘束するものではないが、北京高等人民法院の影響力及び発表されたタイミングから、「使用を目的としない悪意のある商標登録出願」の該当性に関する商標局の審査実務においても参照されるものと推測される。

 

3 損害賠償額の引上げ及び権利侵害物品の廃棄命令

 そのほか、現行法は商標権侵害による損害賠償について、①権利者の被害額、②侵害者の利益又は③合理的と認められるライセンス料(②は①が認定困難の場合に用いられ、③は①、②が共に認定困難の場合に用いられる。)の3倍を上限とする懲罰的損害賠償制度を設けていたところであるが、改正法では、その上限が3倍から5倍に引き上げられた(63条1項)。また、現行法では①、②又は③の額がいずれも認定困難の場合には、裁判所が裁量により300万人民元(約4,800万円)以下の損害賠償額を認定できると定めていたが、改正法では、この限度額が500万人民元(約8000万円)に引き上げられた(63条3項)。

 また、現行法では商標権の侵害物品の処理方法について定めておらず、権利侵害の商標を除去して再度流通させることも可能であったところ、改正法では、裁判所は権利者の請求に基づき、原則として、商標権を侵害する物品及び当該物品の製造設備及び材料の廃棄を命じるものとする旨の規定が、新たに設けられた(63条4項)。

以上

 

タイトルとURLをコピーしました