タイ:TISO/IBCの業務範囲の拡大(関連会社向け融資提供の追加)(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 箕 輪 俊 介
タイは、東南アジア地域のビジネスハブとなることを標榜し、近時、タイ投資委員会(Board of Investment (BOI))を中心に外国資本の誘致に向けて様々な施策を打ち出している。その一環として、BOIは、関連会社支援業務や地域統括拠点業務等に対する投資恩典である、貿易投資支援事務所(Trade and Investment Support Office(TISO))と国際ビジネスセンター(International Business Center(IBC))の業務範囲を拡大し、それぞれの業務範囲に関連会社向けの融資の提供を追加する旨の布告を2021年9月末に公開した(布告の内容は2021年6月30日に遡って適用される。)。この制度変更は、海外の関連会社向けの融資に対して課される外資規制の問題を解消するための新しいオプションとなるため、タイにおける貸付行為に対する外資規制の現状と共に本稿にて紹介する。
1. 貸付行為と外資規制
タイにおいて貸付行為は一般に外資規制の対象とされているが、近年その規制は緩和傾向にある。すなわち、従前、外国人事業法上の「外国人」に該当する事業者は、商務省事業開発局長から許可を受けない限り、原則として融資一般を行うことができないものとされていたが、2019年6月施行の省令により、グループ会社又は関連会社[1]間における国内金銭貸付業務は外資規制の適用対象から除外された。
上記制度変更は、外資規制の適用を受ける法人がタイ国内での関連会社向け融資を容易にするものとして意義があるものであったが、タイ国外向け貸付をも外資規制の対象外とするものではなく、同貸付は引き続き商務省事業開発局長から許可を受ける必要があった。そのため、例えば、豊富な現金を有するタイ子会社がタイ国外の資金需要が旺盛な関連会社に対して現金を常態的に融通することは容易ではなく、親会社向けのアップストリームローンを実施するにあたっても商務省事業開発局長から許可を受ける(原則として、外国人事業法上のライセンス(Foreign Business License(FBL))を取得する)必要があった[2]。
(2)につづく
[1] グループ会社又は関連会社とは、以下の関係を有する場合を意味する。なお、「保有」には間接保有が含まれず、いわゆる孫会社等は含まれないので留意する必要がある。
- ① ある法人の株主又は組合員の数の過半数以上が、他の法人の株主又は組合員の過半数以上を構成する場合
- ② ある法人の資本の全体の価値の25%以上を保有する株主又は組合員が、他の法人の資本の全体の価値の25%以上を保有する株主又は組合員である場合
- ③ 法人が、ある法人の資本の全体の価値の25%以上を保有する株主又は組合員である場合
- ④ ある法人の経営権を有する取締役又は組合員の数の過半数が、他の法人の経営権を有する取締役又は組合員の数の過半数である場合
[2] 商務省事業開発局長から許可を受ける方法はいくつかあり、商務省事業開発局へ直接、FBLの取得を申請する方法が代表的なものである。しかしながら、このFBLを取得することは一般的には容易ではなく、かつ、取得にあたって一般的に3-4ヶ月程度の期間を要する。加えて、融資に関してFBLを取得する場合、融資全般を包含するFBLを取得することは困難であり、原則として融資の都度FBLを取得する必要がある。
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(みのわ・しゅんすけ)
2005年東京大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科(法科大学院・司法試験合格により)退学。2014 年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、2014 年Ashurst LLP(ロンドン)勤務を経て、2014 年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。
バンコク赴任前は、中国を中心としたアジア諸国への日本企業の進出支援、並びに、金融法務、銀行法務及び不動産取引を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。
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