◇SH2634◇租税における公平の実現(13・完) 饗庭靖之(2019/06/28)

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租税における公平の実現

第13回(完)

首都大学東京法科大学院教授・弁護士

饗 庭 靖 之

 

第4 地方税における租税公平主義

5 法人住民税と法人事業税の税収配分のあり方

(1) 

 日本の中で、大都市部は、経済成長の源であり、大都市部への公共投資が日本の経済成長のために必要であり、したがって、大都市部の地方団体の支出を通じる公共投資こそ、日本全体への経済波及効果が大きいので、大都市部の地方団体の財政支出を拡大するために、法人住民税と法人事業税の税収配分を、大都市部への地方団体に集中すべきであるという議論は成り立つか。

 日本のいかなる地域においても、公共的な投資は必要があり、公共的な投資を行うべき問題ごとに日本のどこの地域に公共的な投資を行うべきか、いかなる量において公共的な投資を行うべきかということが決まってくるのであって、「大都市部の地方団体の支出を通じる公共投資こそ、日本全体への経済波及効果が大きい」と一概に言うことはできないのであり、この命題は、検証不能の命題である。

 東京都の資料[1]で、「国の物差し」で計測されない東京都の支出の例として、①東京都に全国の3割が集中している待機児童の解消に向けた取組等、②都民の命と暮らしを守る、都市型災害への備え等、③日本の玄関口としての、東京の観光施策、④日本全体に大きな波及効果をもたらす、東京2020大会の開催準備があげられている。

 ①の「待機児童の解消に向けた取組」、②の「災害への備え」、③の観光施策は、大都市部だけではなく、日本全国どこでも問題になることである。

 ④の東京2020大会の開催準備は、オリンピックの開催は、過去にも長野でオリンピックが開催されたことであり、大都市部に固有の支出ということはできない。

 「大都市部の地方団体の支出を通じる公共投資こそ、日本全体への経済波及効果が大きい」というのは、過去において、東京への人口が移動していた高度成長期には成り立ったのではないか。

 人口が移動している場合には、人口が移動することによる新たな行政需要が発生している可能性があるが、それを離れて、「大都市部の地方団体の支出を通じる公共投資こそ、日本全体への経済波及効果が大きい」ということはできないと考えられる。

 現在の成熟した社会構造を持ち、人口自体は減少していく日本では、「大都市部の地方団体の支出を通じる公共投資こそ、日本全体への経済波及効果が大きい」ということはできないと考えられる。

(2) 地方団体間の財政調整の必要性

 各地方団体において、必要な予算額と税収との間に不均衡を生じている原因に、法人住民税と法人事業税がある。

 地方税の課税根拠である応益負担と応能負担のうち、応能負担の税収は、法人が大都市圏に偏在しているため、大都市圏の地方団体に集中して税収が入ることとなるが、上記のとおり、法人住民税と法人事業税に、応益負担の要素の部分があるとしても、大都市圏に偏在している法人からの法人住民税と法人事業税収入を大都市圏の地方団体が独占して自己の収入とすることは正当化されない。

 法人の偏在状況に合わせて、地方自治体の財政状況が左右されるべきではないことからは、法人住民税と法人事業税の税収は、各地方自治体の行政需要に応じて、各地方自治体に配分されなければならない。

(3) 地方団体間の財政調整の方法

 地方団体間の財政力の格差の解消を目的とする財政調整を、法人住民税と法人事業税の税収の配分によって行う必要がある。

 現在の地方交付税は、国の税収を、財政力の乏しい地方団体の財政補てんに充てることを目的としていることから、地方交付税で財政力の乏しい地方団体に対する財政補てんはできても、富裕な地方団体は富裕なままで放置される。このため、地方交付税制度だけでは、富裕な地方団体と財政力の乏しい地方団体との格差は是正されない。この格差を是正するためには、個別の地方団体が法人住民税と法人事業税を個別に独占して税収として取得するのではなく、全国の地方団体が一つの窓口で、法人住民税と法人事業税を徴収し、これを各地方団体に割り振る仕組みにすることが必要である。

 地方財政平衡交付金について国と地方団体との間で紛争が絶えなかった経緯からは、国が、地方団体の税源の過不足の調整をすることは、地方団体の自主財政主義の観点から好ましくないとして摩擦を生じるおそれがある。

 このような摩擦を緩和するためには、すべての地方団体の総意の下に、統一した基準財政需要額と基準財政収入額の算定方法を作成すべきである。この地方団体の統一した基準財政需要額と基準財政収入額の算定方法に基づき、各日本全国の法人から一つの窓口で徴収した法人住民税と法人事業税の総額を、地方団体の基準財政需要額と基準財政収入額との差の額に応じて、按分比例で各地方団体に交付するのが適切である。

 そして、このように法人住民税と法人事業税収入を各地方団体に交付してなお各地方団体の基準財政需要額を基準財政収入額が下回る地方団体に対して、国が、現在の国の税収を税源とする地方交付税を交付することとするのが適切である。

 応益負担の観点から、法人に対して地方団体がした行政サービスの費用についての受益者負担を求めることが必要であるという受益と負担の一致を求める主張に対しても、上記の基準財政需要額の算定において、地方団体がした行政サービスの費用が含まれていることになるから、ある地方団体に所在する法人が納税した法人住民税と法人事業税の応益負担にあたる部分は、当該地方団体の基準財政需要額の中に含まれ、地方交付税として当該地方団体に交付されるので、地方団体が受益者負担を求める趣旨は満足されることとなる。

(4) 地方団体間の競争

 以上のような法人住民税と法人事業税のあり方についての適正化が図られることなく、「法人の偏在状況に合わせて、地方自治体の財政状況が左右される」ことが放置されるのであれば、大都市圏以外の地方団体は、標準税率に従って課税することを続ける必要はないと考えられる。

 地方税法の採用する標準税率という制度を、各地方自治体が税率を自由に調整できる制度として、地方自治体は、標準税率によることなく、法人住民税と法人事業税の税率を低減させる競争により、法人の誘致が実行されるのが適切である。

 標準税率を低減させて、法人の誘致の働きかけを行うことによって、会社移動が実現されることにより、現在の大都市圏の収入となっている法人住民税と法人事業税が、地方団体の税収とすることが図られる。このことを通じて、法人の国内における適正配置が実現されていくこととなろう。

(完)

 


[1] 東京都「算定結果に対する東京都の考え方」別紙4頁

 

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