◇SH1472◇実学・企業法務(第90回) 齋藤憲道(2017/11/02)

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実学・企業法務(第90回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2. 内部統制システム

 会社法に規定する内部統制システムは、取締役等の善管注意義務を具体化したものと解すべきであり、金融商品取引法の内部統制システムは、同法に基づく情報開示制度の適正を確保する制度である。両者の目的は必ずしも同一ではない[1]

 また、会社法(362条4項6号)が求める「業務の適正を確保するための体制の整備」は業務統制全般を対象にしており、金融商品取引法に基づく「財務報告に係る内部統制」はその中に含まれる関係にある。

 このように、両法が想定している「内部統制システム」は、似ているが、同一とは言えない。

  1. (注) 会社法では「内部統制」という用語は使われていない。

  しかし、リスク等の非財務情報を詳細に金額評価すれば、両者の対象領域はほとんど一致する。この評価結果のどの範囲を財務諸表に反映すべきかについては、会計の原則に従うことになる。

 企業の実務では、複数の類似する管理システムを精緻に区別して構築する実益は乏しく、必要な経営情報(種類、量)が最大になる範囲を対象にして一元的な管理システムを構築するのが効果的である。

 特に、上場会社においては、会社法が定めている事業報告に用いられる情報よりも、金融商品取引法及び証券取引所規則による開示資料の方が質・量とも圧倒的に上回るので、後者を基本にして経営情報管理システムのあり方を考えるのが効果的だろう。

(1) 会社法の内部統制システム 

 会社法は、いわゆる「内部統制システム」について、次のように定めている。

 取締役会は、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備[2]を決議する。この体制整備については、取締役会が決議するものとし、取締役に委任できない[3]

 これを受けて、法務省令(会社法施行規則)は、下記① ②の体制の整備を求めている。

  1. ( ) 内は、筆者が付した注記である。

 

 ① 取締役をめぐる体制の整備(会社法施行規則100条1項)

  1. 1 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制 □ 
    (経営情報の保存、管理)
  2. 2 損失の危険の管理に関する規程その他の体制 □◇☆
    (「損失」に関するリスク・マネジメント)
  3. 3 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 □☆
    (組織編成・運営制度、決裁基準、経営計画等)
  4. 4 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制 □☆
    (コンプライアンス)
  5. 5 当社、親会社、子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制 〇□◇☆
    (グループ管理)
     

 ② 監査役監査の実効性を確保する体制の整備(会社法施行規則100条2項、3項)

  1. A. 監査役設置会社以外の株式会社の場合 〇□
    上記の1~5に「取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制」を含める。
  2. B. 監査役設置会社の場合 〇□
    上記の1~5に次を含める。
    1 監査役が職務を補助する使用人の配置を求めた場合の扱い(監査役(会)のサポート体制①)
    2 1の使用人の取締役からの独立性に関する取極め (監査役(会)のサポート体制②)
    3 監査役の1で配置された使用人に対する指示の実効性を確保するルール(監査の実効性確保)
    4 次の(イ)(ロ)の体制、その他、監査役への報告体制(監査役の情報収集体制)
     (イ)取締役・会計参与・使用人が監査役に報告するための体制
     (ロ)子会社の取締役・会計参与・監査役・執行役・業務を執行する社員等(又はこれらの者から報告を受けた者)が監査役に報告するための体制
    5 4の報告者がその報告を理由として不利な取扱いを受けない体制(監査役への報告者の保護)
    6 監査役の職務執行に係る費用支払手続・費用等処理方針のルール化(監査費用の処理方針)
    7 その他、監査役監査の実効性を確保する体制(その他、監査の実効性確保体制)

 

(参考)会社法の内部統制システムの流れを作った2つの裁判

  1. ○ 大和銀行株主代表訴訟事件[4]
  2.    大和銀行ニューヨーク支店において、証券係責任者が行った無断かつ簿外の不正取引により大和銀行に巨額の損失が発覚した。大和銀行は、1996年2月に米国における銀行業務から撤退した(米国内の支店等17店を廃止)。
     この件で、不正が行われた期間に取締役であった者に対する株主代表訴訟が、日本で提起された。
  3.  〔判決〕
     「健全な会社経営を行うためには、事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスク(略)の状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわち、リスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。そして、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要するから(商法260条2項)、会社経営の根幹に関わるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は、大綱をふまえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う。(略)取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役又は業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役又は業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負うものであり、これもまた、善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものと言うべきである。また、どのような内容のリスク管理体制を整備すべきかは経営判断の問題であり、会社経営の専門家である取締役に、広い裁量が与えられていることに留意しなければならない。(略)取締役は、自ら法令を遵守するだけでは十分でなく、従業員が会社の業務を遂行する際に違法な行為に及ぶことを未然に防止し、会社全体として法令遵守経営を実現しなければならない。」
     判決では、11名の取締役[5]について、会社に対する総額7億7,500万米ドル(約830億円)の損害賠償責任が認められた。
  4. ○ 神戸製鋼所株主代表訴訟事件[6]
  5.    神戸製鋼所では、長年、特定の取締役副社長が総会屋対策に関わってきた。この副社長及びこれを引き継いだ取締役は、自ら又は社員に指示して、株主総会を平穏に終了させるために与党総会屋に2億円弱を供与した。この利益供与及びそのための裏金捻出が行われた当時の会長・社長・担当取締役らに対し、会社が被った損害の賠償を求めて株主代表訴訟が提起され、和解で解決された。
  6.  〔裁判所所見〕
     「企業のトップとしての地位にありながら、内部統制システムの構築を行わないで放置してきた代表取締役が、社内においてなされた違法行為について、これを知らなかったと弁明するだけでその責任を免れることができるとするのは相当でない(略)。」
     「この点につき、被告(略)らは、神戸製鋼所においても一定の内部統制システムが構築されていた旨を主張する。しかし、総会屋に対する利益供与や裏金捻出が長期間にわたって継続され、相当数の取締役及び従業員がこれに関与してきたことからすると、それらシステムは十分に機能していなかったものと言わざるを得ず、(略)違法行為を防止する実効性ある内部統制システムの構築及びそれを通じての社内監視等を十分尽くしていなかったとして(略)監視義務違反が認められる可能性もあり得る(略)。」

 


[1] 神田秀樹『会社法〔第19版〕』(光文堂、2017年)218頁 

[2] 会社法362条4項6号

[3] 会社法362条4項。なお、指名委員会等設置会社については会社法416条1項1号ロ、ホ。

[4] 大阪地裁判決2000年〈平成12年〉9月20日(判例時報1721号3頁)

[5] 他の1名の取締役に対する訴えは、却下された。

[6] 神戸地方裁判所和解の「裁判所所見」2002年(平成14年)4月5日 商事法務1626号52頁

 

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