中国:ネットワーク安全審査弁法(意見募集案)(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
2019年5月24日、国家インターネット情報弁公室は「ネットワーク安全審査弁法(意見募集案)」(以下「本弁法」という。)を公布し、同年6月24日までの意見募集を開始した。本弁法は、2017年6月1日より施行されている「ネットワーク製品・サービス安全審査弁法(試行)」(以下「2017年弁法」という。)を代替することになる。本弁法は、2017年弁法と比べて、ネットワーク安全審査制度についてより全面的・明確に規定するだけでなく、その内容も安全審査の対象、方針、主管部門、発動要件、評価要素、手続等の多方面にわたる。本稿では、本弁法の主な内容を紹介することとする。
なお、本稿は長島・大野・常松法律事務所の柳陽中国弁護士の協力のもとに作成している。
1. 安全審査の対象
中国では、一部の企業や機関が技術上の優位性等を利用して中国国内において無断で情報を収集したり、中国の政府部門や国内企業、大学等のネットワークに無断で侵入したりする等のリスクを防ぐため、重要情報インフラ運営者は、国家安全と公共利益にかかわるようなネットワーク製品・サービスを調達する際に、安全審査を行うこと義務を負っている(ネットワーク安全法第35条)。
本弁法第2条は、ネットワーク安全法第35条の規定を踏襲し、ネットワーク安全審査が必要となる状況を「重要情報インフラ運営者がネットワーク製品・サービスを仕入れ、国家の安全に影響を与える、又は影響を与えるおそれがあるもの」と規定し、ネットワーク安全審査の実施義務を負う者が重要情報インフラ運営者に限定されることを確認している。また、本弁法第18条では、重要情報インフラ運営者(以下単に「運営者」という。)の範囲について、重要情報インフラ保護業務部門によって認定された事業者を指すと明確化している。2017年弁法と比較して、ネットワーク安全審査が必要となる状況が明示された点、また、重要情報インフラ運営者の範囲が限定された点において本弁法の施行により安全審査が無制限に拡大する懸念を一定程度払拭できると考えられる。しかしながら、ネットワーク安全審査の対象については、本弁法においても、「法律、行政法規に他の規定がある場合は、その規定に従う」と規定されており、他の法律、行政法規でもネットワーク安全審査の対象が追加される可能性がある点に留意が必要である。
2. 安全審査の方針
ネットワーク安全審査は、ネットワーク安全リスクの防止と先端技術応用の促進、公正透明の増強と知的財産権の保護の統一化を堅持し、事前審査と継続監督管理、企業承諾と社会監督を結び付け、製品・サービスの安全性、国家安全にもたらすリスク・潜在的危険等の方面から総合的に分析し評価しなければならないとされた(本弁法第3条)。
3. 安全審査の主管部門
安全審査の主管部門について、以下のとおり分担が規定されている(本弁法第4条及び第5条)。
機関 | 役割 |
中央ネットワーク安全・情報化委員会 | ネットワーク安全審査業務を統括 |
国家インターネット情報弁公室 | 国家発展改革委員会、工業情報化部、公安部、国家安全部、商務部、財政部、中国人民銀行、国家市場監督管理総局等の複数の部門と共同で国家ネットワーク安全審査業務体制を構築 |
ネットワーク安全審査弁公室 | 国家インターネット情報弁公室に設置され、安全審査に関する制度の制定、ネットワーク安全審査及び監督審査決定の実施 |