フィリピン:労働力のみの請負の禁止に関する法改正の動向(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
昨年6月の本連載の記事にて、フィリピンにおける「労働力のみの請負の禁止」について紹介した。請負等によって外部の人的リソースを用いる場合には労働者の権利保護のための諸規制に服するというものであるが、昨今、かかる規制を遵守しない、あるいはその趣旨を潜脱する請負等の事例が社会問題化している。(日本において、労働者派遣や労働者供給に関する規制を遵守しない、いわゆる偽装請負が時に問題となることに類似している。)かかる状況を受けて、昨年5月には労働雇用省が違法な「労働力のみの請負」を行っている企業20社(日系その他外資系企業も含まれている。)を公表して改善を促し、またドゥテルテ大統領も度々労働環境の改善の必要性に言及していたところである。
そして、2019年5月末、労働者の権利保護強化等のための雇用法の改正法案(以下「本改正法案」という。)が上院、下院で可決された。本稿脱稿時点では大統領の署名は未了であるが、近日中にかかる署名がなされ、本改正法案の成立、施行が見込まれるところ、今回はその内容を紹介する。なお、本改正法案による改正項目は、非正規雇用に関する事項を中心に複数に亘るが、その中でも比較的日系企業の関心が高いと思われる労働力のみの請負に関する事項に絞って説明する。
禁止される労働力のみの請負の範囲
労働力のみの請負(labor-only contracting)が禁止されることは、現行法(現行雇用法及びこれを受けた労働雇用省令2017年174号等)及び本改正法案において基本的に共通であるが、禁止対象たる労働力のみの請負の範囲の規定ぶりに、以下のとおり若干の変更がみられる。
現行法 | 本改正法案 |
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注意すべきは、請負対象業務と、発注者の主たる事業との直接の関連性である。現行法では、請負業者が5百万ペソの払込資本金を有している限り、主たる事業との直接の関連性のみを理由に労働力のみの請負と判断されることはない(そして、立法趣旨は定かではないが、下記適法要件との関係で、いずれにせよ請負業者が5百万ペソの払込資本金を満たすことは必要である。)。他方で、本改正法案では、請負業者が「労働者の供給のみを行う」場合で、かつ上記事業関連性があるときは、請負業者の払込資本金額等に関わらず、労働力のみの請負に該当することとなる。そのため、特に労働、知識集約型の業務(例えば工場や建設現場の作業員、エンジニア等の業務)の外注時には、事業関連性の有無や、請負業者側が「労働者の供給のみを行う」ものであると見られるリスクについて、より慎重な検討が必要になるであろう。なお、事業関連性の判断基準については、さらに下位法令で詳細が規定されることが想定されている(現行法では、そのような下位法令は不存在。)。
(下)につづく