中国:「独占的協定の禁止に関する暫定規定」の公布
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 鹿 は せ る
2019年7月1日に、中国の市場管理監督総局は、「独占的協定の禁止に関する暫定規定」、「市場支配的地位の濫用の禁止に関する暫定規定」及び「行政権力の濫用による競争行為の排除・制限の制止に関する暫行規定」の3つの規定を公布し、いずれも同年9月1日から施行するとした。①独占的協定、②市場支配的地位の濫用及び③行政権力による競争行為の排除・制限は、中国独禁法が定める三大違反類型であり、①は水平及び垂直カルテルに代表される競争停止行為、②は取引妨害及び不当廉売に代表される他者排除的行為、③は行政的独占をそれぞれ規制するものである。今般公布された3つの規定は、これらの違反類型に関する独禁法を補う、いわば施行規則にあたるもので、今後の実務の指針としての意義は大きい。本稿及び次稿で、それぞれ①および②の暫定規定の重要な点について説明する[1]。
1 「独占的協定」の認定
中国独禁法13条及び14条は、それぞれ複数の事業者による水平的競争停止行為(いわゆる水平カルテル)及び垂直的競争停止行為(いわゆる垂直カルテル)の協定(合意)を禁止しており、両者は合わせて「独占的協定」と呼ばれている[2]。独占的協定の禁止に関する暫定規定(以下「本暫定規定」という)は、まず「独占的協定」の意義を、「競争を排除、制限する合意、決定又はその他の協同的行為を指す」(規定5条)と規定し、「協同的行為」の認定要素として、事業者間の行為の一致、意思の連絡等を列挙している(規定6条)。また、本暫定規定7条から12条は、独禁法に規定された価格の制限、生産又は販売数量の制限及び市場分割等のカルテル行為について、より細分化した規定を置いている[3]。さらに、本暫定規定13条は、7条から12条に規定されたもの以外の「合意、決定又は協同的行為について、競争を排除、制限する証拠があるもの」についても違反行為となることを規定している。この13条は単なるバスケット条項と見ることもできるが、12条までに規定された類型の行為は原則違法であり(すなわち、当局は当事者による違法行為の存在を立証できれば、競争の排除・制限効果を立証せずとも、違法を認定できる)、それ以外の類型については、当局に競争の排除・制限効果の立証責任まであるとも解釈でき、この点は今後の運用によって明らかになると思われる。
2 当事者の承諾及び調査中止
中国独禁法45条は、独禁法違反の嫌疑により調査が行われている際に、当事者が一定期間内に具体的な措置を講じ当該違反行為の効果を解消することを承諾した場合には、当局は調査を中止できると規定している。実務においては、当局の調査が入る段階で、当事者から調査中止の申請がなされるケースが珍しくないが、同規定については、当事者の調査中止の申請がどの段階まで認められるのか(当局が違法行為に関して確証を得た段階でも申請できるか、それとも「嫌疑」に留まる段階までしか申請できないか)という点が不明確であるとの指摘があった。これに対して、本暫定規定は、当局が調査により独占的協定を認定できる場合には、当事者による調査中止の申請を受理しないと規定し(規定21条)、当局が確証を得た段階以降の申請は認められないことを明らかにした。また、価格、生産・販売数量及び市場分割に関する独占的協議、いわゆる「ハードコアカルテル」については、嫌疑の程度に拘らず、そもそも調査中止申請を受理しないと規定している(規定22条)。その他、調査中止を決定した場合に、当事者は規定期間内に当局に対し、書面により問題解消の状況に関する報告を行わなければならないとしている(規定24条)。
3 リニエンシー制度
中国独禁法46条は、事業者が独占的協定について自主的に報告し、かつ重要な証拠を提供した場合、当局は「当該事業者に対する処罰を軽減し、又は免除することができる」とリニエンシー制度の規定を置いている。この規定については、申告順位に応じた減免割合が明示されていない、また、減免が「できる」と規定されており、当局の裁量次第とされている点で、申告事業者にとって利用しにくいという指摘があった。これに対して、本暫定規定は、リニエンシーについて、第1順位の申告事業者は処罰の免除又は80%以上の減額、第2順位については30%から50%の減免、第3順位については20%から30%の減免を行うことができるとし(規定34条)、当局の裁量は維持されているが、順位と減免割合については比較的明確な目安を得ることができるようになった。
4 その他
本暫定規定は正式公布前からパブリックコメントに付されていたが、パブリックコメント版と公布版の最大の違いは、パブリックコメント版にはいわゆるセーフハーバーが規定され、当事者の市場シェアの合計が一定の数値以内の独占的協定については、原則競争の排除・制限効果を満たさず独禁法上違法とならないとされていたが、この点が公布版からは削除された点である。これについて、当局は、暫定規定はあくまで既存の独禁法の範囲内で制定する必要があり、セーフハーバー制度を設けるためには独禁法自体を改正する必要があるとの意見を考慮したためであると説明している。この点、中国では現在独禁法の改正作業も進んでいると言われており、今後同法の立法状況を注意深く見守る必要がある。
以上
[1]③は解釈・運用の実態が不明確で、日系を含む外資企業との関連性も薄いため省くこととする。
[2]中国独禁法における「独占的協定」は、「カルテル」と同じ意味と理解して差し支えない。
[3]例えば、価格制限については、価格計算の標準方程式の約定や、他の事業者の価格決定権を制限すること等を意味すると規定されている(7条)