インド:セクシャルハラスメント防止法における
内部苦情委員の任期満了に伴う論点
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 島 章 裕
インドでは、2013年4月、職場における女性に対するセクシャルハラスメントの防止に関する法律(Sexual Harassment of Women at Workplace (Prevention, Prohibition and Redressal) Act, 2013)(以下「セクハラ防止法」という。)が成立し、同年12月9日に施行された。セクハラ防止法は、一定の要件を満たす会社においてセクハラ事案に対応するための内部苦情委員会(Internal Complaints Committee)(以下「ICC」という。)を設置する義務を雇用者に課している。ICC委員の任期は3年であるところ、本稿を執筆する2017年3月末時点でセクハラ防止法が施行された2013年12月から3年以上が経過しており、ICC委員の任期満了が到来する企業も多いと思われる。以下ではICCの設置義務の内容を踏まえ、ICC委員の任期満了に関する若干の論点を検討する。
1. ICCの設置義務
セクハラ防止法は、10名以上の労働者を雇用する会社の雇用者に対して、ICCを設置する義務を課している。ICCは、以下のような委員によって構成される必要がある(セクハラ防止法第4条第2項)。
- • 議長は、職場における労働者の中からシニアレベルの女性が任命されること
- • 女性の地位向上のために従事した者又は社会奉仕活動を行った経験若しくは法的知識がある者が労働者の中から2名以上任命されること
- • 1名は、非政府機関若しくは女性の地位向上のための組織に属する者又はセクシャルハラスメントに関する問題に精通した者が任命されること
- • 全委員の半数以上は女性であること
また、議長及びICC委員の任期は、3年を超えてはならないとされている(セクハラ防止法第4条第3項)。
上記のICCの設置義務に違反した場合、雇用者は、5万インドルピー以下の罰金が課されることになる(セクハラ防止法第26条第1項第(a)号)。雇用者が、当該違反について有罪認定を受けた後に、同一の違反を行い再度の有罪認定を受けた場合、10万インドルピー以下の罰金が課されることに加え、事業を行うために必要な政府機関から取得した許認可の取消又は更新拒否等の制裁を受けることになるため、注意が必要である。
2. ICC委員の任期満了に伴う問題点
ICCの構成には上記1.に記載した要件があり、これらの要件を充足する委員を任命することは会社によっては容易ではない場合も少なくないため、ICC委員が任期満了を迎えた場合でも、当該委員の再任を求める企業もあるであろう。セクハラ防止法においては、ICC委員を再任することを認める特段の規定はないが、当該規定がないことはICC委員の再任を否定する趣旨ではなく、当該再任は法律上認められるとする解釈が一般的である。
また、インドでは実務上シニアレベルの女性の労働者の数が限られていることが多く、特に候補者の選定が難しいのは労働者の中からシニアレベルの女性を議長に任命することと思われる。基本的にICCはオフィスの場所又は職場の行政単位毎に設置する必要があり、原則として議長も異なる場所にあるオフィス又は職場の行政単位については個別に選任される必要があるが、議長については難しい場合は他のオフィス又は職場の行政単位から指名されることが可能である。当該オフィス等からも選任が難しい場合、同一の雇用者のその他の職場又はその他の部門若しくは組織から指名することが可能である(セクハラ防止法第4条第2項第(a)号)。それでも選任が難しい場合、地方苦情委員会(Local Complaints Committee)の地区担当官(District Officer)に選任を依頼する方法があるとの指摘もあるが、立法府の議会委員会(Parliamentary Standing Committee)は雇用者の関連会社等から雇用者が主体的に選任することが望ましい対応であると考えているようである。
新しい委員を任命する場合は、当該委員に対してセクハラ防止法の内容、ICCの職務内容、セクハラに関する苦情を受けた場合の具体的対応方法等について、ガイダンスやトレーニングプログラムが施されることが必要となるであろう。また、既存のICCにおいてセクハラに関する具体的事案が受理され、審理されている場合には、当該事案の審理に支障が生じないように十分な引継ぎを円滑に行う等の対応が必要となる。