◇SH2760◇金融庁、「金融機関窓口や郵送書類等による確認手続にご協力ください」を告知 飯田浩司(2019/09/05)

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金融庁、「金融機関窓口や郵送書類等による確認手続にご協力ください」を告知

岩田合同法律事務所

弁護士 飯 田 浩 司

 

 金融庁は、令和元年8月23日、「金融機関窓口や郵送書類等による確認手続にご協力ください」をそのHP上で告知した(以下「本告知」という。)。

 本告知は、そのWEBアドレスから、元々は平成30年4月27日に掲載されたものを金融庁が敢えて再度告知したものと考えられ、告知内容を再度伝えたいという金融庁の姿勢が感じられる。

 今回は、当該告知の内容とその背景を概観したい。

 

 (1)

 本告知は、端的に言えば、金融機関が、マネー・ロンダリング及びテロ資金供与への対策(以下「マネロン・テロ資金供与対策」という。)のためにその顧客に対して様々な確認手続(従前行われていなかったものを含む。)を行うことについて、顧客に理解と協力を求めるものである(本告知冒頭)。

 (2)

 本告知は、大きくは三節に分かれている。

 第一に、まず、「1.金融機関等を通じたマネロン・テロ資金供与」の節では、金融機関等におけるマネロン・テロ資金供与対策の必要性が説かれる。なぜなら、マネロン・テロ資金供与を予防すべきことは論を待たないところ、そうしたマネロン等は金融機関等において資金を転々とさせることにより、なされるためである。

 第二に、「2.マネロン・テロ資金供与対策への国際的な目線の高まり」の節では、金融機関等においてマネロン・テロ資金供与対策が講じられるべき今日的理由が説明される。

 すなわち、2019年に、国際的な枠組みであるFATF(Financial Action Task Force)(図表1[1]による日本のマネロン・テロ資金供与対策体制の第4次審査がなされるところ、その審査のポイントには「金融機関等の現場において実際に有効なマネロン・テロ資金供与対策が行われているか」が含まれている[2]

 FATFのオンサイト審査は、2019年10月末より予定されており、この審査が直近に迫っているため、顧客に対し種々の確認を求める金融機関に対して支援の姿勢を見せるために、金融庁も改めて本告知を再掲したのではないかと考えられる。

 第三に、「3.金融機関等の利用者にご理解いただきたいこと」の節では、①まず、金融庁が「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下「マネロン・ガイドライン」という。)を策定し、また、金融機関がマネロン・テロ資金供与防止を進めていることが説明され、さらに、②金融機関等がその顧客に対して、(i)従来よりも厳格な本人確認従来求めていない資料要求・質問をする場合があり、かつ、(ii)各金融機関により、また、各利用者により、求められる資料や内容が異なる場合があることも説明されている。

 本告知は、そのような金融機関による新たな対応について、金融機関等の顧客に理解と協力を求めるものと言える。

 

図表1(財務省ウェブサイトより)

 

 (1)

 以下、本告知の背景を概観したい。

 日本のマネロン対策の歴史は、FATFより不備を指摘され、法改正を迫られることの連続という面があった(図表2)。国際的な取り決め等を遵守する姿勢が強い日本においてはFATFの基準についてもこれを遵守することが適切であり、マネロン対策という公共性の強い事柄であれば尚更といえる。また、実際に審査を受ける立場の者が、審査者から質問等を受け国内体制の不備を指摘されることは、全く気持ちがよいものではない。さらに、マネロン対策の体制不備を理由に、我が国金融機関が国際的な金融取引・体制から排除され又は利便を損ない、ひいては我が国の金融・経済を損なう可能性もなしとしない。

 そのため、FATF第4次審査に万全の体制を持って臨むことが政府の方針と言ってよいことは、周知の事実と思われる。その審査の対象の一つである金融機関におけるマネロン・テロ資金供与対策も重要であり、金融庁としても本告知を含め金融機関を支援する必要がある。

 

図表2(財務省ウェブサイトより)

 (2)

 ところで、金融機関の顧客も法律を遵守する必要があるのは当然だが、マネロン・テロ資金供与対策の中核となるマネロン・ガイドラインの法形式は「ガイドライン」である[3]マネロン・ガイドラインは、それに定める措置を的確に実施すべきことが金融庁の各監督指針に記載され、指針に関わる金融機関にとって重要な規範となっているとはいえるが金融機関の顧客に課せられた規範といえるかは議論の余地がある金融機関にマネロン・ガイドラインの遵守を求める一方で、金融機関の顧客の理解と協力を求める告知をすることも、ガイドラインの性質を踏まえた公正な態度と言えるだろう

 なお、マネロン・ガイドラインを受けて、全国銀行協会は平成31年4月4日に普通預金規定改定の参考例を発表しており[4]、当該改定後の規定等はその公益性や相当性から改定前の預金契約者にも相当な限度で適用されるという見解が有力である。その意味で、上記顧客による協力には一定の規範的根拠ができつつあるが、周知期間等の関係で改定が未発効の金融機関もある模様である。

 

 本告知が対象とするマネロン・テロ資金供与対策は、当然ながら企業も対象とするものである。実務的な影響としては、企業による送金等についても質問・資料要求がなされる機会が増える可能性があり、特に通常と異なる取引をする場合においては、余裕を持った対応が望ましいことに留意すべきであろう。

以上



[1] 以下のリンク先の1頁(図表1と同資料)参照。
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/09/05.pdf

[3] マネロン・ガイドラインが求める措置は、犯罪による収益の移転防止に関する法律が求める措置よりも広くなり得るとされる。なお、ガイドラインの形式をとった理由の考察については他日を期したいが、多様な金融機関が、リスクベース・アプローチの下で当該金融機関のリスク環境に即した対応をすべきこと(本告知も金融機関ごと、利用者ごとに対応が異なり得ることを説明している。)をFATFの審査を考慮して整備する場合、法令よりも包括的なガイドラインの方が適当という判断があり得たのかもしれない。

 

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