東証、野村證券に対し「不適切な情報伝達」事案で過怠金1,000万円の処分
――東証および取引参加者への「信義に背反する行為」と指摘――
東京証券取引所は8月28日、野村證券(日本橋本社:東京都中央区、非上場)に対し、過怠金1,000万円を賦課する処分を行ったとするとともに業務改善報告書の提出を求めたと発表した。
すでに金融庁が5月28日、野村ホールディングス(本店:東京都中央区、東証第一部・名証第一部上場)および野村證券に対して業務改善命令を発出し、野村ホールディングスにおいて6月3日、改善報告書の提出・受理を発表した「不適切な情報伝達」事案を巡る処分。本件では、今年3月5日、東証が設置した「市場構造の在り方等に関する懇談会」の委員を務める野村総合研究所の研究員が野村證券のリサーチ部門に所属するチーフストラテジストに対して「東証で議論されている市場区分の見直しについて、上位市場の指定基準及び退出基準が時価総額250億円以上とされる可能性が高くなっている」旨の情報を伝達した結果、当該情報が野村證券の社員等を経て、顧客である機関投資家に提供された(事案の概要、金融庁の認定、野村ホールディングス側の改善策・再発防止策について、SH2596 野村ホールディングス、「不適切な情報伝達」で金融庁に改善報告書を提出 (2019/06/11)既報)。
金融庁が業務改善命令の発出時に認定していたのは、野村證券における(1)情報管理に係る経営管理態勢が十分ではないと認められる状況、(2)過去の行政処分を踏まえた業務運営の改善が不十分な状況。今般の処分においても同様に(1)および(2)の状況を認定しているが、東証によると(1)については、チーフストラテジストからの情報伝達に関して「(編注・野村総合研究所研究員からの情報受領と)同日、同社社内及び野村HDの海外現地法人であるノムラ・インターナショナル(ホンコン)LIMITED(以下「NIHK」という。)の少なくとも営業員6名並びに外部のファンドマネージャー1名」に対し、当該「情報をメールで伝達」し、また「翌6日には、メーリングリストを利用し、同様の情報を含むメールを、多数の国内外機関投資家及び営業員に送付」し、このようにして当該情報伝達を受けた営業員のうち「3名の営業員(うち1名はNIHKの営業員)」が少なくとも外部機関投資家延べ33機関に対し、当該情報を提供して勧誘する行為が認められたとしている。
上記(2)の状況については、東証においても平成24(2012)年の「増資インサイダー事案」につき冒頭で触れながら類似性を指摘。「コンプライアンス意識の全社員への徹底が不十分であり、業務運営の改善が不十分な状況にあるものと認められる」と金融庁と同様に述べたうえで、一連の行為について「同社において認められた経営管理態勢・内部管理態勢が不十分な状況に起因して発生した当該行為は、投資者の保護に欠け又は取引の公正を害する行為で、東証市場の運営に鑑みて、東証の信用を失墜し、東証及び東証の取引参加者に対する信義に背反する行為である」とし、本件処分を賦課したものである(なお、増資インサイダー事案での過怠金は2億円であった)。
処分を受け、野村證券では8月28日、反省とお詫びを表明したうえで、5月24日に公表した「改善策を着実に実行し、再発防止に向けて全社をあげて取り組んでおります」と現状についてコメントした。