◇SH2783◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第62回) 齋藤憲道(2019/09/19)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

第3部 直接部門と間接部門(又は、全社)が一体になって行う経営管理

1. 生産・販売・在庫・流通の管理

 企業の生産・販売活動では、①指定された特性・品質の製品を、②指定された時期に、③指定された量だけ、④効率的に生産し、⑤指定された数量の完成品を指定された場所・時期に納入する、という作業が行われる。(多くの場合、これが繰り返し行われる。)

 この①~⑤を確実に行い、かつ、コスト削減と資金の効率的運用を実現するために、常に、材料管理・生産計画・工程管理(機械設備の稼働・作業員の確保・歩留まり管理等)・品質管理(材料・工程・完成品等)・出荷管理等の管理システムが維持・改善される。 

 良品を生産計画通りに生産するためには、製造工程の各作業について標準(組立・検査等の動作・要領、所要時間、手元に必要な材料、等)を定め、その標準に従って作業を行うことが重要である。製品の品質・原価(コスト)・生産所要日数等は、全生産工程の上流にある設計段階で設定すると効果が大きくなるが、そのためには設計部門が、下流で実際の作業を担当する製造・購買・品質管理・生産技術等と事前検討を重ねて標準を実践的にする必要がある。

 材料・仕掛品・完成品等の「在庫」は、生産や販売活動において物品の流れの円滑化や売り損じの回避に寄与するが、保管費用の増加・経時品質劣化(廃棄が必要になる場合もある)・市場販売価格低下・所要資金の増大等を勘案すると、できるだけ少ないのが望ましい。

  1. (注) 在庫リスクを自ら負う見込生産と、発注者の指定納期に合わせて納入する受注生産とでは、管理手法が異なる。

 顧客の手元に届ける商品が、現在、どの段階(製造工程、出荷予定、運送経路等)にあるのかを把握できる管理システムが、生産活動(材料手配を含む)を効率的に行い、かつ、顧客満足度を高めるのに有効であるとして、様々な業界の企業に浸透している。

 この管理を行うのに必要なデータ・情報を次に例示する。

  1. ・ 販売記録(売上、商品・役務の提供、出庫、運送業者引渡し、送付先の受取記録、輸出通関業者引渡し、返品)
  2. ・ 生産・調達・在庫の計画及び実績、関係情報(生産計画・調達計画、自社製造ラインの稼働実績・良品生産実績、部品・材料・仕掛品・完成品の入庫・在庫・出庫・廃棄等の実績)
  3. ・ 商品物流・生産・部材調達・完成品調達のトラブルに関する情報(輸送・保管・生産・部材等調達の中断状況及び復旧見込み、代替路線・代替調達先に関する情報)
  4. ・ 商品トラブルに関する現在・過去の情報(商品に関する事故・不具合・苦情等の情報、原因究明結果と対策)

2. トレーサビリティ(追跡可能性)の確保

 企業では、商品に危険や法令違反があることが判明すると、直ちに顧客・関係者に必要な情報を伝達して商品の修理・回収・廃棄等を行い、同時に、原因を解明して、原材料・部品・製造ラインの改善(場合によっては生産中止)等を行う。

 そのためには、原因を解明して適切な対策を行うためのトレース・バックtrace backと、消費者・販売店等に販売された商品を追いかけて原因究明(危険を招く使用・改造等)・措置(使用上の注意喚起、修理、回収等)を行うためのトレース・フォワード trace forwardを確実に実施できる管理体制を整備する必要がある。

 トレーサビリティ・システムには、サプライチェーンの川上(水・肥料・土壌・飼料・原材料・部品等)から、自社(生産工場、販売部門等)を経て、川下(完成品出荷後の運送・保管・顧客への引渡し・使用・廃棄等)に至るまで、対象の製品を一貫してトレースできるデータ・情報を取得・保存し、必要な時に、必要な情報を取り出して対策等を検討できる機能が求められる。

 なお、サプライチェーンの構成員の間で、予め、各自の責任関係を明確にし、対象物の所在確認・トラブルの原因究明・対策検討等を行う手順を決めておけば、対策の質を向上し、所要時間を短縮することができる。

  1. 〔トレーサビリティ・システム構築の要点〕
  2. 1) 管理する対象の範囲、物品の管理単位(ロット)、ロット毎に記録する情報の種類、を定義する。
  3. 2) 情報の記録とデータ・ベース化の方法を定める。(バーコードや ICタグ等の技術的手段が有効)

 トレーサビリティを確保する仕組みは、業種・製品の製造方法・販売方法・保管方法・消費者との取引関係等によって様々である。

 ここでは、代表事例として牛トレーサビリティ法[1]が定める仕組みを取り上げ、トレーサビリティの確保に必要な作業や情報の概要を理解する。

  1. (注) 世界で問題となった「狂牛病」の不安を縮小するため、2003年(平成15年)に日本で「牛トレーサビリティ法」が制定され、同年12月に施行された。ただし、牛肉への表示等は2004年(平成16年)12月に施行された。

(1) 牛トレーサビリティ法  

 2003年に、全ての牛に個体識別番号を付し(耳標[2]を装着)、出生から流通・消費の全段階で一貫したデータ・ベース管理を一元的に行う(農林水産大臣による牛個体識別台帳作成[3])ことにより個体の識別を可能にする「牛トレーサビリティ制度」が導入された。

 この制度では、牛及び牛肉の個体識別に必要となる情報の管理・報告・届出・表示・帳簿の記載及び保管等を関係者に義務付けている。消費者は、スーパーマーケット等の店頭で購入した牛肉の「個体識別番号(パック部等に表示)」を「家畜改良センター」のホームページで検索して、牛の種別・飼養場所・生成過程等を知ることができる。

 各関係者が負う義務の主なものは、次の通りである。

  1. 1) 牛の管理者(牛の所有者その他の牛を管理する者)

    1. ① 牛の出生・輸入・譲渡し又は引渡し・譲受け又は引取り・死亡・輸出の発生の都度、「家畜改良センター」に書面・インターネット等により次の事項を届け出る義務を負う[4]
    2.  1 出生 出生年月日、雌雄、母牛の個体識別番号、管理者名等、飼養施設の所在地、牛の種別
    3.  2 輸入 輸入年月日、雌雄、輸入者名等、飼養施設の所在地、牛の種別、輸入先国名
    4.  3 譲渡し又は引渡し 管理者名等、個体識別番号、相手方名等、譲渡し等年月日、飼養終了年月日
    5.  4 譲受け又は引取り 管理者名等、個体識別番号、相手方名等、譲受等年月日、飼養施設所在地、飼養開始年月日
    6.  5 死亡 管理者名等、個体識別番号、死亡年月日、譲渡し等の相手方名等(死亡した牛で譲渡し等をされたもの)
    7.  6 輸出 輸出者名等、個体識別番号、輸出年月日、相手方名等、飼養施設所在地、輸出先国名
    8. ② 耳標を装着する義務を負い、牛耳の疾患等の場合を除き、取り外すことが禁止される。
       
  2. 2) 屠畜者

    1. ① 家畜改良センターに書面等により次の事項を届け出る義務を負う[5]
      屠畜者名等、牛が屠殺された屠畜場名と所在地、個体識別番号、屠殺年月日、譲受けの相手方名等
    2. ② 屠殺した牛から得た特定牛肉(枝肉、部分肉、精肉等)を他者に引き渡すときは、それに個体識別番号(又は、屠畜番号、枝肉番号[6])等を表示する等して伝達[7]しなければならない。
  3. 3) 販売業者(枝肉・部分肉を扱う卸売業者、精肉を扱う小売店・スーパー等)
    販売する特定牛肉、容器、包装、送り状、又は店舗(不特定かつ多数への販売に限る)の見やすい場所に個体識別番号(又はロット番号)を明瞭に表示して伝達[8]しなければならない。
  4. 4) 特定料理提供業者[9]
    特定料理又は店舗の見やすい場所に、個体識別番号(又はロット番号)を明瞭に表示して伝達しなければならない[10]
  5. 5) 帳簿の備付義務(屠畜業者・販売業者・特定料理提供業者に係る義務)
    特定牛肉の引渡・販売・提供に関して、各業者がそれぞれ取り扱った牛・牛肉のトレースに必要な法定事項[11]を帳簿に記載(又は記録)して1年毎に閉鎖し、閉鎖後2年間保存する義務を負う[12]


[1] 「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」の通称

[2] 耳標の規格は、牛トレーサビリティ法9条2項、同法施行規則11条の定めによる。

[3] 牛トレーサビリティ法3条。牛個体識別台帳の作成は「独立行政法人家畜改良センター」に委任されている(同法20条)。

[4] 牛トレーサビリティ法8条1項・2項、11条1項・2項、13条1項・3項。同法施行規則7条2項、8条3項、14条2項、15条2項、17条2項、19条2項

[5] 牛トレーサビリティ法13条2項。同法施行規則18条

[6] 個体識別番号以外の番号又は記号を表示する場合、屠畜者は、特定牛肉の引渡しを受ける者に、その番号・記号に対応する牛の個体識別番号を記した書面を交付(又は農林水産省が定める情報通信等の方法による)しなければならない。(牛トレーサビリティ法14条2項・3項。農林水産省パンフレット「牛トレーサビリティ法」)

[7] 牛トレーサビリティ法14条1項~3項

[8] 牛トレーサビリティ法15条1項・2項。同法施行規則22条

[9] その営業施設において、焼き肉・しゃぶしゃぶ・すき焼き・ステーキ等が仕入れ又は販売の過半を占める。

[10] 牛トレーサビリティ法16条1項。同法施行規則26条

[11] 「屠畜業者」は特定牛肉に対応する個体識別番号、引渡年月日、引渡相手方の氏名(又は名称)及び住所、引渡重量。「販売業者」は販売した特定牛肉毎に次の(イ)及び(ロ)に掲げる事項(販売相手が不特定かつ多数の場合は(ロ)を除く)(イ)仕入れた特定牛肉に対応する1若しくは2以上の個体識別番号(又は荷口番号)、仕入年月日、仕入相手方名等、仕入れた特定牛肉の重量。(ロ)販売した特定牛肉に対応する1若しくは2以上の個体識別番号(又は荷口番号)、販売年月日、販売相手方名等、販売した特定牛肉の重量。「特定料理提供業者」は提供した特定料理の主たる材料とした特定牛肉毎に、仕入れた特定牛肉に対応する1若しくは2以上の個体識別番号(又は荷口番号)、仕入年月日、仕入相手方名等、仕入れた特定牛肉の重量。(牛トレーサビリティ法17条。同法施行規則27条2項)

[12] 牛トレーサビリティ法17条。同法施行規則27条1項

 

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