中国:薬品管理法の改正(後編)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
本稿では、前稿に続き2019年8月26日に可決され、12月1日より施行される「中華人民共和国薬品管理法」改正案(以下「新薬品管理法」という。)について主な修正内容を紹介する。
なお、本稿は長島・大野・常松法律事務所の柳陽中国弁護士の協力のもとに作成している。
4.偽薬品・劣悪薬品の範囲の変更
現行法は、偽薬品・劣悪薬品を広い範囲で規定しており、薬品の品質が基準を満たさないことにより「偽薬品・劣悪薬品」を認定する場合もあれば、海外の薬品のように、中国政府部門の審査認可を得ずに輸入したことにより「偽薬品・劣悪薬品」と判断する場合もある。
新薬品管理法によれば、以下に掲げる事由のいずれかに該当する場合、偽薬品又は劣悪薬品として処理することとされる(新薬品管理法第98条)。
偽薬品に該当する場合 | 劣悪薬品に該当する場合 |
薬品成分が国家薬品標準規定の成分と合致しないとき | 薬品成分の含量が国家薬品標準に合致しないとき |
非薬品を薬品と偽る又は薬品の種類を偽るとき | 汚染された薬品 |
変質した薬品 |
有効期間を明示しない又は有効期間を変更したもの 有効期間を経過したもの |
明示された適応症又は主な治療効能が規定の範囲を超えるもの | 製造ロット番号を明記しない又は変更したもの |
無断で着色剤、防腐剤、香料、矯味剤及び補助材料を添加したもの | |
その他薬品標準の規定に合致しないもの |
新薬品管理法は、現行法で「偽薬品」とされる「認可を得るべきであるにもかかわらず認可を得ることなく製造若しくは輸入し、又は検査すべきであるにもかかわらず検査を経ることなく販売するもの」(現行法第48条3項2号)を除外している。すなわち、これまで海外から輸入した中国で登録されていない薬品を国内で販売する場合、偽薬品の販売として処理されていたが、新薬品管理法は、このような未認可の海外薬品を偽薬品の範囲から除外した。しかし、これを法的に認めたわけではなく、新薬品管理法第98条4項に「薬品の認可を得ずに薬品を生産、輸入してはならない」と個別に規定し、また、未認可の薬品の生産・販売について没収や科料といった罰則が定められており、依然として規制の対象とされている。
5.臨床試験の認可の効率化
新薬を研究開発では臨床試験の実施が必須とされる。現行法では、臨床試験について「国務院の薬品監督管理部門の規定に従い、事実に即して開発方法、品質指標、薬理及び毒理試験結果等の関係資料及びサンプルを提出し、国務院の薬品監督管理部門の認可を得た後に限り、臨床試験を行うことができる」と定められているが、臨床試験の認可に要する期間について定めがなく、実務上、認可が下りるまで年単位で長引く事例さえある。これに対して、新薬品管理法では、「国務院薬品監督管理部門は、臨床試験申請を受領した日より60営業日以内に認可するか否かを決定の上、申請人に通知しなければならず、期限を過ぎても通知しない場合には、許可したものとみなされる。」と新たに規定した(新薬品管理法第19条)。これにより、臨床試験に対する認可取得の効率が大幅に改善され、医療界のイノベーションの促進にもつながるものと思われる。
6.薬品トレーサビリティシステムの整備
薬品トレーサビリティシステムは、情報技術を使用して、薬品の生産・管理の品質及び安全性を確保し、偽薬品・劣悪薬品が合法的なルートに混入するのを防止し、薬品に伴うリスクコントロール、また、リコールが必要な場合の対応に備え構築されるものであり、従前より薬品管理法の重要な制度の一つである。
新薬品管理法は、薬品上市許可保有者、生産経営企業及び医療機関がそれぞれ薬品トレーサビリティシステムを確立し、それにより関連データの共有等を実現するよう要求している(新薬品管理法第36条)。また、これに関連して、国務院薬品監督管理部門は、現在、トレーサビリティ協力プラットフォーム、トレーサビリティ監督管理プラットフォームを構築しており、また、一連のトレーサビリティシステム標準仕様を公布し、統一させることに本腰を入れているといわれている。
7.臨床における少量の薬品の緊急輸入に関する審査認可権限の委譲
現行法の下では、臨床における少量の薬品の緊急輸入について、国務院薬品監督管理部門による審査認可が必要とされている。しかし、審査認可の難易度が高く、また、手続に時間がかかるため、緊急輸入の需要に応えられていないのが現状である。新薬品管理法では、審査認可権限を国務院が授権した省・自治区・直轄市政府に委譲することもできるとされた(新薬品管理法第65条)。これにより、従来と比べて、審査認可を通りやすくなることが期待される。
8.罰則の強化
新薬品管理法において、違法行為に対する処罰が大幅に強化され、また、民事責任に関する規定も整備された。
まず、罰金の額が大幅に引き上げられた。偽薬品の製造に対する罰金の額は、現行法に定めた「違法に製造・販売した薬品の商品価値の2倍から5倍まで」を、「15倍から30倍まで」引き上げ、さらに、商品価値が10万元に満たない場合には10万元として計算するとされた(新薬品管理法第116条)。
また、民事責任の規定については、新薬品管理法は、使用者に損害をもたらした場合の薬品上市許可保有者及び薬品生産運営企業の賠償責任を明確にするとともに、海外の薬品販売ライセンス保有者及び中国国内における代理人の連帯責任(新薬品管理法第38条)や、偽薬品・劣悪薬品を生産し又は偽薬品・劣悪薬品と知りながら販売する者に対する懲罰的損害賠償権なども規定している(新薬品管理法第144条)。
9.まとめ
上述したとおり、新薬品管理法は、現行法と比べて改正面が広く条文量も1.5倍になり、また、中国におけるインターネット社会化や海外薬品の個人輸入の増加(「海淘」)といった時代の動向を反映した修正点も多く見受けられる。今後の実務において、新薬品管理法がどのように具体的に適用されるのか、また、今回の改正を受けて下位法である薬品管理法実施条例がどのように改正されるか等について、引き続き注目すべきであろう。
以上