☆インド:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報) 山本 匡(2020/04/17)

2020年4月16日号
インド:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)

                                                                                長島・大野・常松法律事務所

弁護士 山 本   匡

はじめに

 緊急事態宣言の発令以降、大都市圏の多くの企業が急速なテレワークへの切替えや事業体制の見直しに追われる一方、3月決算企業では決算・監査対応を中心に多くの課題が生じるなど、事業への影響は日々拡大しています。多くの海外地域においては引き続き厳格な外出制限や営業禁止等のロックダウン措置が継続している一方、一部地域においては行動制限の軽減・解除に向けた議論が始まるなど出口戦略の模索も始まりつつあります。

 本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年4月15日夜時点で判明している情報に基づいています。

 

全体概況  死亡者:392人、感染者数(累計):11,933人(4月15日現在)

 インドでは連日多数の感染者の増加が確認されている。人口が多く、人口密集地も多いため、大規模な感染が懸念されており、3月25日から開始した21日間のインド全土でのロックダウンが、5月3日まで延長されるなど厳格な措置がとられている。中央政府は州政府に対し、迅速かつ強力な措置をとることを連日要請している。都市部への出稼ぎ労働者が帰省し始めており、都市部以外での感染拡大も懸念されている。

 

主な政府発表

  1. ・ 保険・家族・福祉省(Ministry of Health & Family Welfare)がDo’s and Don’tsを公表[1]
  2. ・ インド災害管理法(Disaster Management Act, 2005)及びインド感染病法(Epidemic Disease Act, 1897)が発動
  3. ・ 出稼ぎ労働者に対し帰省しないよう求め、帰省中の者については待機施設で14日間待機すること等を求める。既に帰省した者についても14日間の自宅待機等を求める。
  4. ・ 3月25日に開始した21日間のインド全土でのロックダウンを5月3日まで延長する。

 

渡航情報

  1. ・ 3月22日から3月29日までの間、国際民間旅客航空便のインドへの着陸が停止された。乗客は国籍を問わず「on Indian soil」に降り立つことが禁止される。なお、3月25日以降、国内民間旅客航空便も運行が停止される。
  2. ・ 全てのビザが2020年4月15日まで効力を停止した。やむを得ない理由によりインドに入国する必要がある場合は、インド大使館又は領事館にコンタクトしなければならない。
  3. ・ 日本人へのOn-arrival Visaの発給は停止されている。
  4. ・ 中国、韓国、イタリア、イラン、フランス、スペイン、ドイツ、UAE、カタール、オマーン、クエートに渡航歴のある者は、インドへの到着後、最低14日間隔離される。
  5. ・ EU、ヨーロッパ自由貿易連合、トルコ、英国、アフガニスタン、フィリピン、マレーシアからのインドへの渡航(乗継ぎを含む。)が禁止された。
  6. ・ 中国、韓国、イラン、イタリア、フランス、スペイン及びドイツへの渡航中止の強い勧告、並びに新型コロナウイルスの感染があった国への不急の渡航中止の勧告がなされている。
  7. ・ 韓国及びイタリアからインドに渡航しようとする者は、医療機関が発行する新型コロナウイルスに感染していないことを証する証明書を有していることを要する。その他の国からの渡航者も、自己申告書を提出する必要がある。

 

その他

  1. ・ インド災害管理法に基づき、インド全土での3月25日午前0時から21日間の完全なロックダウン命令が出されており、違反した場合、罰則が適用され得る。現地報道によれば、理由なく外出した者に実際に罰金支払命令が出されているとのことである。このロックダウンは、5月3日まで延長された。
  2. ・ 雇用主は、一般的に職場における従業員の安全・健康を確保すべき義務を負っており、新型コロナウイルスに関しても、従業員への情報提供、職場における衛生環境の確保、感染者・感染の可能性のある者の出勤停止(病気休暇等)、在宅勤務等の措置を検討すべきであるが、現在、インド全土で完全なロックダウン命令が出されており、一定の生活に不可欠なサービスや生活必需品の生産を除き在宅勤務となる。
  3. ・ 州によっては、州政府が、新型コロナウイルス拡大を理由とする解雇(契約社員の雇用止めを含む。)や給料減額を雇用主が行わないよう通達を出している。
  4. ・ インド伝染病法の発動により、各州政府に、規則の制定を含め、新型コロナウイルス対策に関する広汎な権限が付与された。州により、当該州の感染病COVID-19規則(Epidemic Diseases, COVID-19 Regulations, 2020)を制定しており、新型コロナウイルスが確認された国等への渡航歴がある者の病院への報告義務、地方当局への感染地域の封鎖等を含む広汎な権限付与等が行われている。州によっては当局による立入検査も可能である。規則に違反した場合、罰則が適用され得る。
  5. ・ インド災害管理法が発動され、マスク等の価格統制が行われている。違反した場合、罰則が適用され得る。
  6. ・ 財務大臣兼企業大臣は、以下を含む各種措置を公表した。
  7. (ⅰ) インド会社法(Companies Act, 2013)及び関連規則上、財務諸表等を承認する取締役会は、テレビ会議を使用せず物理的に一堂に会して開催する必要があるが、テレビ会議使用禁止規制を6月30日まで免除する。
  8. (ⅱ) インド会社法上、ある取締役会から次の取締役会までの期間は120日以内でなければならないが、9月30日まで、この期間を60日間延長する。
  9. (ⅲ) 2019-20年度から適用される予定であった監査報告書令(Companies (Auditor’s Report) Order, 2020)を、2020-21年度から適用する。
  10. (ⅳ) インド会社法上、独立取締役は、年1回以上、非独立取締役及び経営陣が出席しない会議を開催する必要があるが、2019-20年度については、独立取締役が当該会議を開催できなくても上記要請の違反とはみなされない。
  11. (ⅴ) インド会社法上、事業年度(基本的に4月1日~翌年3月31日)内に182日以上インドに滞在していた居住取締役が存在する必要があるが、かかる居住要件を充足できなくても違反とはみなされない。
  12. (ⅵ) インド倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)に基づく倒産処理手続き開始申立てを行うための要件の1つである債務不履行額を、10万ルピーから1,000万ルピーとする。4月30日以降も現在の状況が継続するようであれば、6か月間、倒産処理手続き開始申立てに関する同法の規定を停止することを検討する。同法上、各種手続きを行わなければならない期間が規定されているが、ロックダウンの期間は当該期間に算入しない。
  13. (ⅶ) インド会社法上、一定の会社は、同法所定のCSR活動への支出が義務付けられているところ、新型コロナウイルスに関する支出はCSR活動への支出に含まれる。新型コロナウイルスへの対処等を主目的としてインド首相が設立したPrime Minister’s Citizen Assistance and Relief in Emergency Situations Fund(PM CARES Fund)への寄付もCSR活動への支出に含まれ、最大限の寄付を要請する(PM CARES Fundへの寄付は税務上の控除も認められる。)。
  14. (ⅷ) インド国内の会社等に対し、新型コロナウイルス感染拡大阻止に向けた活動として、Form CAR (Companies Affirmation of Readiness Towards COVID-19)を提出(オンライン提出)することを要請する。
  15. (ⅸ) 各種直接税・間接税の税務申告や税金の支払について提出期限・納税時期が延期される。
  16. (ⅹ) インド会社法及びインド有限責任組合法(Limited Liability Partnership Act, 2008)に基づき、インドの会社及び有限責任組合は、各種届出等を行わなければならないところ、これを懈怠している会社及び有限責任組合が多数存在する。2020年4月1日から9月30日まで、届出遅滞による追加手数料や訴追を免除することにより、これらの会社及び有限責任組合に届出等を促すための、会社新スタート・スキーム(Companies Fresh Start Scheme, 2020)及び有限責任組合セトルメント・スキーム(LLP Settlement Scheme, 2020)を導入する。
  17. (ⅺ)インド会社法上、テレビ会議による株主総会の開催は認められていないが、臨時株主総会に限り、一定の要件に従いテレビ会議による開催を認める。
  18. ・ インド証券取引委員会(Securities and Exchange Board of India)は、以下を含む各種措置を公表した。
  19. (ⅰ) 上場会社の年次財務諸表や四半期財務諸表等の継続開示書類の提出期限を、上場会社・書類の種類等により、約3週間から60日間延期する(例えば、株式上場会社の年次財務諸表の提出期限は1か月延期。)。
  20. (ⅱ) 上場会社の取締役会及び監査委員会の開催頻度につき、ある会議から次の会議までの開催期間が120日以内でなければならないという上場規則の規制を、2019年12月1日から2020年6月30日までに開催される取締役会及び監査委員会に適用しない。
  21. (ⅲ) 時価総額上位100社の上場会社は、事業年度末から5か月以内(2020年3月31日に終了した事業年度については2020年8月31日まで)に年次株主総会を開催しなければならないところ、開催期限を2020年9月30日に延期する。
  22. (ⅳ) 上場会社は、年1回以上、指名・報酬委員会(nomination and remuneration committee)、利害関係者委員会(stakeholder relationship committee)及びリスク・マネジメント委員会(risk management committee)を開催しなければならないため、2020年3月31日までにこれらを開催しなければならないところ、開催期限を2020年6月30日に延期する。
  23. (ⅴ) 上場会社は、決算等の一定の情報を一定期間内に新聞で公告しなければならないところ、2020年5月15日まで当該情報の新聞公告を免除する。
  24. (ⅵ) 上場会社の一定の25%の株式・議決権を保有する者やプロモーター等は、3月31日現在の株式・議決権保有割合等を事業年度末から7営業日以内(2020年4月15日)までに開示する必要があるが、開示期限を2020年6月1日に延期する。
  25. ・ インド競争委員会(Competition Commission of India)が公表した通達によると、企業結合の届出その他の届出等が3月31日まで停止される。
  26. ・ インド最高裁判所の命令により、3月15日から命令が出されるまで、時効期間が延長される。
  27. ・ 商工省(Ministry of Commerce & Industry)が公表した通達によると、実施期間が2015年4月1日から2020年3月31日までの外国貿易政策(Foreign Trade Policy)が、2021年3月31日まで延長される。輸出促進スキーム(Export Promotion Schemes)に基づく各種インセンティブも12か月間延長される。但し、サービス輸出スキーム(Service Exports from India Scheme)に基づくインセンティブについては別途公表される。
  28. ・ インド準備銀行(Reserve Bank of India)は、以下を含む各種措置を公表した。
  29. (ⅰ) 2020年3月1日から5月31日までに支払期日が到来するターム・ローン上の元本及び利息等の支払を、銀行が3か月間猶予することができる。
  30. (ⅱ) インドからの商品・ソフトウェアの輸出対価は、輸出日から9か月以内に全額の支払を受ける必要があるが、2020年7月31日までに行われた輸出対価の支払受領については、輸出日から15か月以内へと延長する。
  31. ・ 現地報道によると、財務省(Ministry of Finance)が、太陽光発電デベロッパーに対し、新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱により、契約上の期限を遵守できなかったとしても、財務上の制裁を回避するため、不可抗力条項を発動することができると公表したとのことである。
  32. ・ 従業員に感染者が出た場合、当局に報告する以外、第三者に感染者に関する情報を開示することは、インド情報技術法(Information Technology Act, 2000)の個人情報保護に関する規定に違反するので開示してはならない。

 

(やまもと・ただし)

2003年弁護士登録。2009年以降、インド現地法律事務所、日系証券会社・日系自動車メーカーのインド子会社へ出向。2014年から長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務を経て、現在は東京オフィス勤務。インド・ミャンマー等の新興国の案件を中心に携わる。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

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