個人情報保護委、特定個人情報の適正な取扱いに関する
ガイドラインに関するQ&A更新
岩田合同法律事務所
弁護士 丸 山 真 司
個人情報保護委員会は、令和元年9月25日、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」及び「(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」に関するQ&Aを更新した(4つのQ&Aの追加)。追加されたQ&Aの概要は以下のとおりである。
Q5-10 身分証明書等として個人番号カードを提示する際に裏面の個人番号を見られた場合、特定個人情報の提供制限に違反するか。
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A 意図せずに裏面の個人番号を見られただけでは、特定個人情報の提供に該当しない。
Q5-11 拾得した個人番号カードを警察に届け出ることは特定個人情報の提供制限に違反するか。警察に届け出るまでの間、一時的に預かることは、特定個人情報の収集・保管制限に違反するか。
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A いずれも違反しない。
Q6-12 身分証明書等として個人番号カードの提示を受ける際、裏面の個人番号が見えた場合、特定個人情報の収集制限に違反するか。
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A 意図せずに見ただけであれば違反しない。ただし、個人番号の書取り、コピー等を行った場合、特定個人情報の収集・保管制限に違反する可能性がある。
Q6-13 身分証明書の写しとして、顧客の個人番号カードをコピーしても良いか。
- A 身分証明書の写しとして使用する目的で個人番号カードの表面をコピーすることは問題ない。ただし、裏面の個人番号をコピーすることは特定個人情報の収集・保管制限に違反する可能性がある。
特定個人情報とは個人番号(いわゆるマイナンバー)をその内容に含む個人情報をいう(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下「番号法」)第2条第8項)。特定個人情報は個人情報(個人情報の保護に関する法律(以下「個情法」)第2条第1項等)の一類型であり、番号法は個情法の特例とされていることから(番号法第1条)、番号法に規定のある事項については番号法が、番号法に規定がない事項については個情法等が適用される。番号法の規制は、基本的に個情法の規制よりも厳格なものとなっている。
個情法第23条は個人情報取扱事業者が個人データの第三者提供を行うことについて制限するが、番号法第19条は、個情法第23条と異なり、個人情報取扱事業者か否かを問わず全ての者を対象として法定された場合以外の特定個人情報の提供を広く禁止する。その結果、本人による特定個人情報の提供や本人に対する特定個人情報の提供であっても、同条各号で特に認められる場合以外は禁止の対象となる。また、番号法は、特定個人情報の提供のみならず収集、保管等についても厳格な制限を設けており、何人についても、番号法第19条各号に該当する場合以外の、他人の個人番号を含む特定個人情報の収集又は保管が禁止される(番号法第20条)。
今回追加されたQ&A 5-10は本人による自己の特定個人情報の提供について、同5-11は他人の特定個人情報の提供、収集及び保管について、同6-12は他人の特定個人情報の収集について、法令の制限に違反するか否か疑義がある類型について、個人情報保護委員会の見解を明らかにしたものである。
同6-13は、個人番号カードについて、その裏面にのみ個人番号が記載されていることを根拠として、表面のコピーは特定個人情報の収集・保管制限の対象外であるが、裏面のコピーはその対象となることを明らかにしたものである。個人番号カードに限らず、物理的にひとつのカード、書面等であっても、その表面と裏面で又はある部分とその他の部分で法的性質が異なり、適用される法令・制限が異なり得る点に留意が必要である。
今回の更新の冒頭には、事業者からの問合わせが多い事項についてQ&Aを追加した旨が記載されているが、これは特定個人情報を含む個人情報について、事業者に対しより一層適切な取扱いを求めるという個人情報保護委員会の姿勢の表れであり、事業者においても疑義がある場合には積極的に同委員会に照会する等、個人情報の取り扱いについて引き続き意識を高めておく必要があると思われる。
以上