企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
4. 全社の「危機管理体制」の構築 平時の備えが重要
危機管理の効果は、平時に組織全体でどれだけの備えができているのかによって決まる。
企業では、経営に影響を与える日常の業務リスクは経営計画(月次、年次、中長期)の策定時に想定され、その対応策が計画の中に織り込まれて、実行される。
- 例 顧客の嗜好の動向、販売チャンネル動向、景気動向、貿易規制、業界の競争状況(新製品、販売価格、占有率、新技術、生産体制等)、為替レート、人件費の動向
このような日常的な業務リスク以外にも、発生すると経営に大きな影響を与える様々なリスクが存在する。その中の重要な事項(「発生の可能性の大小」と「経営に与える影響の大きさ」を想定して抽出する。)については、平時に、対応方法を検討し、経営への悪影響を最小にするための備えを行うことが望ましい。
以下、日常的に発生する業務リスク以外の経営リスクについて、平時に「危機管理体制」を構築する要領を示す。
- (注) 何が「日常的」かは、企業・業種によって異なる。例えば、サイバーセキュリティは、近年、日常的な経営課題として認識されるようになっている。しかし、システム・ダウン等の障害発生時の経営被害の態様と損害の大きさは、金融機関・メーカー・農林水産業等で異なり、対応策はそれぞれ異なる。
(1) 自社に想定される重大リスクを抽出する
・ 想定される現象を列挙する。(一般に「日常の業務リスク以外」と考えられるリスクを例示)
- 自然災害(台風、地震、水害等)
- 火災、工場爆発、環境汚染、コンピュータシステム障害、インターネットを利用した誹謗・中傷、 疫病、テロ攻撃、戦争 等
・ 事業が受ける影響を整理する
- 1次的影響
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生産・販売活動の停止、電気・ガス・水道の停止、通信の停止、コンピュータシステム(受発注システム、決済、給与計算、その他の管理業務等)の停止、取引先(販売先、仕入先、業務委託先等)の機能マヒ、物流の混乱・途絶、公共交通の混乱、道路の寸断 等
- 2次的影響
- 風評被害、混乱に乗じる詐欺 等
(2)「危機管理体制」を構築し、「危機対応計画」を作る
- ・ 管理体制構築と対応計画策定は、地方公共団体・警察・消防・有識者・コンサルタント・官庁(外務省等)・各種団体等の助言を得て行うことが望ましい。
- ・ 責任者:1級案件は社長、2級は役員、3級は部門長 等の役割分担を行う。
- ・ 対策本部の設置場所:安全性、広さ、電気・上下水道・通信等の確保を考慮し、事前に、複数設定することを決めておく。
- ・ 危機管理体制への移行条件(トリガー)を設定し、企業内で周知しておく。
(3)「危機管理マニュアル」を作る
- ・ 緊急時の行動について優先順位を予め定め、全社員に周知する。
- 〔取組事項の例〕
- 最優先事項は、社員・社員の家族・来訪者等の生命・安全である。
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続いて……企業の資産の保全
業務の早期回復
被害状況の把握(情報を一元化する:情報の収集、外部への公表)
社内・取引先との情報網の復旧(バイパスの設置)
被害の復旧
回復のための要員・資金の確保 - ・ マニュアルは「平時の備え」「危機発生時の行動」「危機後の行動」の要素で構成する。
- ・ マニュアルは、可能な限り簡明にする。分量が多いと、誰も読まない。
(4) 準備と訓練を行う
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・ 全員に、「すべきこと」と「してはいけないこと」を周知する。
全員が「自分のこと」として考えることが重要である。 - ・ 緊急時には「普段の訓練以上のことはできない」と心得る。