アルゼンチン対外債務問題を巡る現況及び展望(上)
西村あさひ法律事務所
弁護士 宮 塚 久
弁護士 田 口 祐 樹
1 はじめに ~ アルゼンチン国債のデフォルト
2001年12月、アルゼンチンは対外債務の支払一時停止を宣言した。その結果、世界各国の資本市場で発行されたアルゼンチン国債はいずれもデフォルト(債務不履行)となった。アルゼンチンは、2005年及び2010年には、デフォルトした旧債券を条件変更後の新債券と交換する旨の提案(エクスチェンジ・オファー)を世界規模で行い、90%以上の債権者がこの提案に応じた。
しかし、交換後の新債券は、旧債券元本をカットする元本削減債やアルゼンチン法準拠のペソ建て債などで、償還期間が超長期にわたるなどアルゼンチンに都合のよい債券が多く含まれ、また、全債券の交換を完了するには至らなかったという問題点を抱えていた。そのため、アルゼンチンは、依然として海外の資本市場から資金を調達できず、国内の資金需要については紙幣の増刷で対応せざるを得なかったことから、長期にわたり年10%程度のインフレに苦しんでいたという。
2 米国での状況
米国では、デフォルト直後から多数の訴訟が提起されていたが、特筆すべきは、2007年以降、主にヘッジファンドがデフォルト債を買い集めて債権者団を構成し、その満額支払いを求めてアルゼンチンを提訴し、2014年6月にはアルゼンチンに対して返済を命じる裁判所の判決が確定した事件である。この米国における判決は、デフォルト債に規定されたパリパス条項(債権者間で返済の優先劣後を設けない旨の条項)を厳格に解釈し、デフォルト債の債権者に対して返済を行わない限り、エクスチェンジ・オファーを受け入れて新債券を取得した債権者への支払いが違法となる旨を判示して、アルゼンチンがニューヨークの銀行口座に送金していた資金の利用(新債券への利払い)を差し止めた。その結果、アルゼンチンは、原資を有しているにもかかわらず支払いを行えない、いわゆるテクニカルデフォルト状態となっていた。
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