◇SH2148◇無人航空機(ドローン)の目視外飛行と第三者上空飛行に関する法規制と論点(3) 掘越秀郎(2018/10/18)

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無人航空機(ドローン)の目視外飛行と第三者上空飛行に関する法規制と論点(3)

西村あさひ法律事務所

弁護士 掘 越 秀 郎

 

3. 第三者上空飛行に関する法律上の論点

(1) 目視外飛行と第三者上空飛行の関係

 ドローンを目視外飛行させると、第三者の上空を飛行する可能性が高まるが、法規制としては、目視外飛行と第三者上空(有人地帯上空)飛行は別に考える必要がある。第1回2.(2)及び第2回2.(3)で述べたとおり、審査要領上、第三者上空飛行は原則として禁止されており、現在の技術レベルに鑑み、許容される目視外飛行は原則として無人地帯上空の飛行に限定されることを条件としているからである。ドローンの物流分野での利活用において、有人地帯上空の目視外飛行は、無人地帯上空の目視外飛行の次の目標とされている。ロードマップでは、無人地帯上空での目視外飛行は第1回1.のとおりレベル3とされているのに対し、有人地帯上空での目視外飛行はレベル4とされ、物流に関しては、都市部における実証実験が2019年以降、実用化が2020年以降の目標として掲げられている。また、レベル4の実施のため、①環境整備面で、都市部の荷物配送を念頭に置いた運用指針の拡充・見直し、運航管理者の資格認定、機体や装置の安全認証等の実現が、②技術開発面で、機体性能・安全性の向上、物流用ドローンポート及び物流用・統合運航管理システム(UTMS)の実現が課題として列挙されている。上記①②の進捗を踏まえて、現在、第三者上空飛行が禁止されている審査要領の改訂が検討されていくことと思われる。

(2) 第三者の権利との調整~土地所有権との関係

 ロードマップによれば、今後、第三者上空飛行に関する論点整理が行われることが予定されている。どのような論点が検討されるかは官民協議会の公表資料等により今後明らかになると思われるが、法的に重要なのは、無人地帯上空の飛行の場合とは異なり、第三者上空飛行の場合、航空法上の許可及び承認基準の問題とは別に、第三者の権利との調整を要する点である。そのため、航空法のみならず、私権に係る民法等の法規制も本格的に関連してきて、より難しい法政策判断が必要になる可能性がある[1]。ロードマップの補足資料においても、ドローンと土地の所有権の関係、プライバシーの保護等が検討課題として挙げられている。

 特に、私人の土地所有権との関係が大きな問題となる点は明確である。民法上、土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶとされており(民法207条)、ドローンが他人の土地の上空を飛行することが、当該土地の所有権を侵害するのではないかが問題になる。土地所有権を制限する法令に航空法は含まれるが、航空法が制限するのは主に空港周辺の土地利用にとどまり、有人航空機が、航空法に定められた可航空域(家屋密集地域上空では水平距離600mの範囲内の最も高い障害物の上端から300m以上、それ以外は150m以上とされる。航空法81条、航空法施行規則174条)を飛行することによって、当該土地所有者の土地利用権は制限されず、土地所有者が、当該可航空域に高層工作物を建築したり、空間浮遊物体を設置することは妨げられないと解されている[2]。但し、有人航空機によって、土地所有者の利用が実際に妨げられる場合を除き、土地所有者は、有人航空機の運行者に対して、所有権の侵害を理由に、損害賠償や航行の差止めの請求を行うことは許されないという考え方が有力である[3]。即ち、所有権の範囲ではなく、所有権に基づく救済方法を制限的に解することによって、私人の土地所有権と有人航空機の航行の自由が調整されているといえる。

 これに対して、ドローンについては、現状、「土地所有者の同意なく、その土地の上空を飛行させることは所有権の侵害に当たる可能性がある」という考え方が一般的であり、国土交通省や総務省からその旨を注意喚起するガイドライン等も出されている[4]。しかし、物流分野で利活用するためのドローンの飛行ルートに対応する各土地の所有者から同意を取得するのは大変であり、特に、市街地ともなれば対象所有者の人数も増え、時間やコストの面で現実的ではないように思われる。そこで、ドローンの性能の向上や技術・安全環境の整備が前提ではあるものの、今後、上記の有人航空機と同様の形で整理できるかを検討する余地もある。この場合、ドローンに関しては、可航空域が有人航空機よりも低い150m未満であり、私人の土地利用権、個人のプライバシー権・人格権、機体が発する騒音との調整をより要する場合があること、有人航空機とドローンとでは機体の性能が異なる点等が議論になりうる[5]

 さらに、土地所有者の利用が実際に妨げられたかという規範のみで十分かという点も問題になりうる。ドローンを恒常的に宅配等の物流分野で利活用するためには、より法的安定性を高める制度・方法が必要なようにも思われる。民法206条は「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」という規定であるが、その文言にかかわらず、絶対的な所有権の存在から出発するものではなく、所有権の内容は法律や判例によって形成されるものであり、所有権の内容は立法政策によって決まると解されている[6]。上記のとおり、ロードマップの補足資料において、ドローンと土地の所有権の関係が論点整理の対象として記載されているのは、今後のドローンの性能の向上や技術・安全環境の整備、利活用によってもたらされる効果やイノベーション、生活者のドローンに対する意識を踏まえて、今後、土地所有権との調整に関する新しい法律の枠組みを構築する可能性を示唆しているように思われる。

(つづく)


[1] 後述する私人の所有権との調整のほか、線路、道路、河川、海岸等の上空を飛行する場合に、関連法に基づく、各管理者の許可の取得・調整の検討を要する。

[2] 川島武宜ほか編『新版注釈民法(7) 物権(2) 占有権・所有権・用益物権』(有斐閣、2007)315頁参照。

[3] 前掲[2]・『新版注釈民法(7)』321頁参照。所有者がかかる請求をする場合、権利の濫用(民法1条3項)に該当するという考え方もある(森・濱田松本法律事務所ロボット法研究会『ドローン・ビジネスと法規制』(清文社、2017)99頁参照)。

[4] 国土交通省ホームページ「無人航空機(ドローン、ラジコン等)の飛行に関するQ&A」(http://www.mlit.go.jp/common/001218182.pdf)(最終閲覧2018年10月11日)中のQ5-7、及び総務省「「ドローン」による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン」(平成27年9月)(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/000376723.pdf)(最終閲覧2018年10月11日)を参照。

[5] 補助者なしの目視外飛行を行う場合、ドローンの機体にはカメラが設置されることが通常と思われ、プライバシーとの関係で問題になる。審査要領上、機体や地上に設置されたカメラ等による飛行経路全体のドローンの状況、飛行経路の直下又はその周辺における第三者の有無等の確認を要する(審査要領5-4参照)。

[6] 前掲[2]・『新版注釈民法(7)』315頁、320頁参照。

 

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