ベトナム:【Q&A】通勤中の交通事故と労働災害(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
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Q: 最近、弊社の従業員が朝の出勤中に交通事故に遭い、入院加療を要する怪我をしてしまいました。この場合は労働災害として認められるでしょうか?また、この場合、弊社はどのような責任を負うことになるでしょうか。
- A:
Ⅰ. ベトナムにおける労災保険と使用者の補償責任
ベトナムにおける労働災害制度は、強制社会保険としての労災保険補償制度と、使用者が負うべき補償責任の二つが法令上規定されています。
その適用関係は複雑ですが、まずは下の表を見ていただきましょう。
まず、労働災害とは、労働者が業務・任務を遂行する労働中に発生した災害で、労働者の人体の部位や機能に損害を与え、又は死亡させるものをいうものとされています(労働安全衛生法第3条第8項)。
労働災害に該当するものであっても、事故が以下の原因による場合には、労災保険も使用者の補償責任も適用されません(同法第40条1項、第45条第3項、及び通達第26/2017/TT-BLDTBXH号第11条第6項)(最右の列)。
- A) 被害者と加害者との間での業務・任務の遂行に関係しない争いによるもの
- B) 労働者の故意の自傷行為によるもの
- C) 飲酒又は違法薬物の使用によるもの
次に、勤務時間中の労働災害については、上記の場合を除き原則として労災保険及び使用者の補償責任の対象となります(最左の2列)。但し、労災保険は、事故により労働能力が5%以上喪失された場合にのみ給付の対象となります(同法第45条第2項)。また、使用者の補償責任については、当該事故が労働者本人の過失によらない場合、以下の金額での補償となります(同法第38条第4項)。
労働能力の喪失率 | 補償金の額 |
5%~10% | 月給の1.5倍以上の金額 |
11%~80% | 月給の1.5倍以上の金額+喪失率1%あたり月給の0.4倍の金額 |
81%以上、又は死亡した場合 | 月給の30倍以上の金額 |
労働者本人の過失により労働災害に遭った場合は、使用者の補償責任は、上記金額の40%以上となります(同第5項)。
最後に、上記労働災害の定義からすると、業務遂行中ではない通勤時間中の事故は労働災害には該当しないことになりそうですが、労災保険の適用対象について定める労働安全衛生法第45条においては、強制社会保険に加入している労働者が、合理的な時間とルートで住居から職場への往復の通勤途中に事故に遭った場合でも、労災保険が適用される余地を認めています。また、労働者が合理的な時間とルートで住居から職場への往復の通勤途中に事故に遭った場合であって、当該事故が他者の過失により発生した場合または事故の加害者を確定できない場合には、労働者本人の過失により労働災害に遭った場合に使用者が負う責任と同様の責任(上記表の金額の40%以上の金額の補償責任)を使用者が負うものとされています(同法第39条第2項)(右から3列目)。
次稿では、労働災害が発生した場合に使用者が採るべき対応と、その他の使用者の責任について説明します。
(下)に続く