◇SH3139◇タイ:タイ版フランチャイズ・ガイドラインの施行(上) 箕輪俊介(2020/05/12)

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タイ:タイ版フランチャイズ・ガイドラインの施行(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 タイでは長年、競争法に関する執行が活発でない状況が続いていたが、2017年に行われた全面的な法改正やそれに伴う当局の構造改革を経て、摘発例が徐々に増え始めている。競争法関連の規制強化の一環として、2019年12月6日付で取引競争法のフランチャイズ・ガイドライン(the Notification of the Trade Competition Committee on Guidelines for Consideration of Unfair Trade Practices in Franchise Business(以下、「タイ版フランチャイズ・ガイドライン」という。))が公布され、2020年2月4日付で発効したため、本項にて紹介する。

 

制定の背景

 近年、タイの競争法の規制当局である取引競争委員会(Trade Competition Committee)は上述のとおり競争法関連の規制強化に努めており、執行の強化に加えて、体系的な法整備も進めている(特に不公正な取引方法に関連するもの)。今般のタイ版フランチャイズ・ガイドラインの施行はその一環として捉えられる。

 

主要な内容

 タイ版フランチャイズ・ガイドラインの主要な内容は以下のとおりである。

 

1. フランチャイズの定義

 フランチャイズの定義は日本で一般的に認識されているものと大きく異ならない。

 すなわち、フランチャイズとは、本部が加盟者に対して、特定の地域及び期間において、特定の商標、商号、システム等を使用して特定の事業を行う権利を与えるとともに、加盟者の事業・経営について、統一的な方法で統制や支援を行い、これらの対価として加盟者が本部に金銭を支払う事業形態に関する合意をいうとされている。

 

2. 事前開示情報

 日本における競争法の観点からのガイドラインである、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(平成14年4月24日公正取引委員会)(以下、「日本版フランチャイズ・ガイドライン」という。)でも記載されている通り、フランチャイズ・システムは、加盟者にも本部のシステムやブランドを利用して事業が行えるというメリットがあるが、他方で加盟者は、本部の包括的な指導等を内容とするシステムに組み込まれるものであることから、加盟希望者の加盟に当たっての判断が適正に行われることがとりわけ重要であり、加盟者募集に際しては、本部は加盟希望者に対して、十分な情報を開示すべきである。

 この考え方はタイ版フランチャイズ・ガイドラインでも組み込まれており、本部は加盟者に対してフランチャイズに参加するか否かを判断するにあたって重要な情報(詳細は末尾掲載の表のとおり)を開示することが義務づけられている。

 

3. 優先出店権の付与

 本部の出店計画は既存の加盟者の売上に影響を与えうる。したがって、既存店舗の利益を保護する観点から、本部が既存店舗の属する商業圏において新店舗・追加店舗を開設する場合には以下の手続を踏む必要がある。

  1. ⑴ 当該商業圏において当該新店舗・追加店舗の予定地にもっとも近い既存の加盟者へ当該新店舗・追加店舗に関する情報を事前に通知
  2. ⑵ 合理的な回答期間を設けた上で当該既存の加盟者に当該新店舗の運営者となる権利を優先的に付与

 商業圏の範囲については、マーケットの競争状況と関連する地域における製品又はサービスの需要の程度を総合的に考慮して判断される。

 

4. 取引競争法違反行為の類型

 以下の類型の行為は、取引競争法違反を構成しうる可能性があるものとして挙げられている。

  1. ⑴ 合理的な理由なく、加盟者にとって酷な条件(フランチャイズ事業と関連性の薄い本部の商品を購入したり、サービスを受けたりすることを要求する、実需以上の商品や原材料の取得を加盟者に対して要求し、売れ残った在庫の返品を認めない等)を設定すること
  2. ⑵ フランチャイズ事業の評判、品質及び水準を維持するための合理的な理由や必要性に基づき書面にて合意内容を変更する場合を除き、フランチャイズ契約締結後に、加盟者に対し新たな条件(フランチャイズ事業と関連性の薄い本部の商品を購入したり、サービスを受けたりすることを要求する等)を設定すること
  3. ⑶ 合理的な理由なく、本部又は本部が指定した者から商品を購入すること又はサービスの提供を受けることを要求し、他のサプライヤー等から、同等の品質でより安い価格の商品を購入することや、サービスを受けることを禁止すること
  4. ⑷ 合理的な理由なく、生鮮食品又は消費期限の近づいた商品を値下げして販売することを禁止すること
  5. ⑸ 合理的な理由なく、特定の加盟者に対して差別的な取扱いをしたり、異なる条件を設定したりすること
  6. ⑹ ⑴乃至⑸にて規定されていた事由以外で、評価、品質及び水準を維持する目的ではないにも拘わらず不適切な条件を設定すること

(次稿へ続く)

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