ミャンマー:商標法の施行に向けた動き
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 松 本 岳 人
2019年1月30日、ミャンマー連邦共和国において商標法(Trademark Law)が公布された。商標法は、2020年1月から施行される予定であるが、商標法の施行に伴い、新たな商標の登録制度も導入される予定である。これまでミャンマーにおいて商標に関する一般法は存在していなかったものの、コモンロー及び刑法などの法律に基づき先使用の商標について一定の法的な権利が認められると解されており、登録官事務所(Office of Registration of Deeds)に、商標所有権宣言書(Declarations of Ownership of Trademark)を提出することによって商標を登録し、当該事実を新聞で公告することにより先使用の事実を証明することが実務上も行われている。また、商標の侵害行為に対しては使用の差止めや刑事手続において一定の法的保護が認められると解されている。もっとも、商標の登録は実質的な審査を経ることはなく登録され、権利として保護される商標の範囲も不明確であるなど、商標制度としては不十分な点が多かった。
新たに成立した商標法においては、商標権の保護は先願主義が採用されることとなり、新たな商標登録機関に登録をすることで10年間商標として保護され、また更新することも可能となる。商標として登録の対象となる標章の範囲についても、視覚的に識別可能な物品又はサービスに関する標章であることが定義上も明確化され、登録の拒絶事由についても明確化されている。また、登録に係る手続については、登録に関する審査、公開、異議申立て、不服申立て、証明書の発行等の一連の手続が規定され、出願申請についてはビルマ語(ミャンマー語)だけではなく、英語でも申請ができることとされている。なお、ミャンマーは標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書(マドリッド協定議定書)には加盟していないため、同議定書に基づく商標の国際出願は認められていない。もっとも、工業所有権の保護に関するパリ条約加盟国又は世界貿易機関の加盟国において標章登録の出願を行った者については、6か月間の先願に係る優先権を主張することが認められる。
商標法の施行に伴い、既存の制度に基づき商標の登録をしている場合であっても、商標権を取得するためには改めて新制度での商標の登録を行う必要があるとされている。この点、商標の登録手続の詳細については未だ不明確な点もあるが、既存の制度に基づき商標の登録をしている商標については優先的な取扱いが認められ、新たな登録制度の正式な運用開始前に6か月間のSoft-Opening期間が設けられ、当該期間中に登録手続をすることにより、正式な登録制度の運用が開始する日に登録されたものと扱われる見込みである(なお、Soft-Opening期間中は新規の商標登録は認められない。)。
ミャンマーでは、従来成文法としては著作権法しか存在していなかったものの、2019年に商標法の他にも意匠法及び特許法が成立し、また著作権法も改正されたことで、主要な知的財産法が整備されたところである。今後、新たに知的財産を管轄する組織が設立されることも予定されており、同組織の下でミャンマーにおける知的財産権の保護が適切に図られることが期待される。
以上