◇SH3358◇中国:外商投資企業苦情処理業務弁法の施行 川合正倫(2020/10/28)

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中国:外商投資企業苦情処理業務弁法の施行

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 行政機関の対応に関する外商投資企業による苦情について定めた「外商投資企業苦情処理業務弁法」(以下、「新法」という。)が2020年10月1日より施行された。中国商務部は、外資保護の強化及び投資環境の向上を図ることを目的として2006年に「外商投資企業苦情処理業務暫定弁法」(以下、「暫定弁法」という。)を制定し、外商投資企業と行政機関との紛争を解決する手段として苦情処理制度が設けられた。今般の改正は、2020年1月1日に施行された外商投資法第26条1項に定める外商投資企業の苦情通報メカニズムの位置づけのもと実施されたものである。

 外国投資者又は外商投資企業と行政機関との間で見解の不一致が生じた場合、一般的には行政不服(中国語表記は「行政复议」)又は行政訴訟によらざるを得ない。しかし、行政不服申立や行政訴訟の提起の手続は、煩雑で時間やコストの負担が発生するほか、行政機関と敵対的な関係に立つことによって企業との関係が悪化する懸念も高まる。苦情制度はより穏便な問題解決制度と考えられている。

 暫定弁法は16条から構成されていたところ新法は33条からなり、苦情処理に関する規定を充実化しており、外資による投資環境の改善を重視する中国政府の姿勢が示されている。本稿では、外商投資企業にとって重要となる新法のポイントについて解説する。なお、本原稿は中国律師万鈞剣の協力を得て執筆している。

 

1. 苦情の範囲及び取扱機構

 新法の適用を受ける外商投資企業による苦情の範囲について、外国投資者又は外商投資企業が行政機関又はその職員による行政行為がその適法な権利を侵害したと考える場合及び投資環境に問題があるため改善措置について提案を行う場合を定めている(新法第2条1項)。

 また、外商投資企業による苦情を取り扱う機構は、商務部及び地方政府に指定される苦情受理部門である(新法第2条2項)。また、商務部は、国務院の関連部門と連携して苦情処理業務の連合会議を立ち上げ、同連合会議は中央レベルにおける外商投資企業の苦情の処理業務を調整及び推進する役割を果たすとされている(新法第5条)。なお、商務部において全国外商投資企業苦情センターも設置され、国務院の関連部門や省レベルの行政機関若しくはその職員の行政行為に関連する苦情又は重大な影響があると認められる苦情等の事務処理を担当する(新法6条)。これを受け商務部は、2020年9月30日に全国外商投資企業苦情センターの苦情申立及び受理に関するガイドライン、並びに各地方の省レベルの苦情取扱機構リストを公表した。このガイドラインにおいては、新法に定める苦情対応の制度について規定するほか、苦情申立書及び受理通知書等の手続書類のフォーマットも含まれている。

 なお、新法に基づく苦情の申立は行政不服の申立及び行政訴訟の提起に関する権利に影響しないことが明確にされている(新法第8条)。

 

2. 苦情の申立及び受理

 外商投資企業による苦情の申立は、窓口での資料提出のほか、郵送、ファックス、Eメール及びオンラインのいずれも可能である(新法第10条)。申立においては、申立人及び被申立人の基本情報、苦情事項の詳細及び請求、証拠及び理由、並びに他の苦情取扱機構による手続中又は行政不服申立、行政訴訟等の手続中であるか等を提供する必要がある(新法第11条、第14条)。代理人による申立も可能である(新法第12条)。

 資料提出後、苦情取扱機構は7営業日以内に受理の可否を決定し、資料に不備があれば15営業日以内に補正するよう通知することになる(新法第13条、15条1項)。なお、他の苦情取扱機構、行政不服申立、行政訴訟等の手続中である場合には受理されず、自然人や法人との民商事紛争に関する苦情を申し立てる場合、関連証拠の偽造若しくは明らかに事実根拠を欠く場合、又は、新しい証拠資料がないにもかかわらず再度苦情申し立てを行う等の場合も不受理となる(新法第14条)。

 

3. 苦情の処理

 苦情の受理後、苦情取扱機構は、解決策を検討することを目的として申立人及び被申立人が対面する面談を行うことができ(新法第17条)、また、苦情内容に応じて次の処理を行うことができる(新法第18条1項)。

✔ 申立人と被申立人が和解に合意するよう推進
✔ 被申立人との調停
✔ 改善措置に関する提案を地方政府に提出
✔ その他の適切な処理

 なお、苦情取扱機構の処理に基づいて申立人と被申立人との間で合意される和解協議書は法的拘束力を有するものとされる(新法第18条2項)。

 苦情取扱機構は受理日から60営業日以内に処理を完了しなければならないとされているが、関係部門が多く、状況が複雑である場合、適切に延長することも認められている(新法第19条)。また、申立人は不受理決定又は処理の結果について異議がある場合、苦情取扱機構の上級機構に対してさらに苦情を申し立てることができ、その場合、当該上級機構は受理又は不受理の決定を行うことになる(新法第22条)。

 中国政府は、新型コロナの影響を受けた国内の経済状況に照らし安定成長の観点から外商投資誘致を強化する必要があることから、外国資本の権益保護強化及び投資環境の向上を図るという方針のもと新法を制定したと考えられているが、その効果については新法下における今後の実務運用を注視する必要がある。

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