ベトナム:PPP法の成立①
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
2020年6月18日、ベトナム国会は官民連携(PPP:Public Private Partnership)方式による投資に関する法律(以下「PPP法」という)を可決した。PPPについては、これまで2018年に公布・施行された政令第63/2018/ND-CP号(以下「政令第63号」という)がそのルールを定めていたが、2021年1月1日からは、PPP法が適用されることになる。
本稿では、PPP法の内容について、PPP法に従ったPPP案件の計画段階から実施のための契約締結までの流れに沿って、政令第63号と比較しながら概説する。
(1) 事前事業化調査レポート(以下「Pre-FSレポート」という)の作成・評価
PPPプロジェクトの準備段階として、まずPre-FSレポートが作成される。PPP法においても、政令第63号と同様、政府提案型(Solicited)のPPP案件の場合、担当省庁・人民委員会の担当部署(PPP法では「PPPプロジェクト準備ユニット」(Đơn vị chuẩn bị dự án PPP)と呼ばれる)がPre-FSレポートを作成し、民間提案型(Unsolicited)のPPP案件の場合、提案する事業者がこれを行う。作成されたPre-FSレポートの評価については、政令第63号では、所轄の政府機関の下にあるPPP活動管理局がこれを行うことになっていたが、PPP法では、PPPプロジェクト審査委員会に評価の主体が変更されている。PPPプロジェクト審査委員会には、国家審査委員会、部門横断(liên ngành)審査委員会、基礎レベル審査委員会の3つのレベルがあり、対象となるプロジェクトの投資方針決定(後述(3)参照)を行う権限を有する機関のレベルに応じて、評価を行う審査委員会が異なることになっている。
(2) PPPによる投資分野
PPPによる投資の対象分野に関する政令第63号とPPP法の文言を比較すると、政令第63号では、列記した分野におけるPPP形式での投資を「奨励する」としているのに対して、PPP法では、列記した分野がPPPによる「投資の対象である」としており、PPPによる投資の対象となる分野を限定列挙している形になっている。政令第63号及びPPP法で記載されている分野は以下の通りであり、PPP法におけるPPPの対象は、政令第63号におけるそれよりも制限されている。
政令第63号における奨励分野
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PPP法におけるPPPによる投資分野
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交通 | 交通 |
発電所及び送電網 | 発電所及び送電網(水力発電所及び電力法に定める国家独占の場合を除く) |
公衆電灯システム、上水道、排水、下水道、公園、車・機械及び設備を設置するための建物・敷地、墓地 | 灌漑、上水、排水及び下水処分、廃棄物処理 |
政府機関の庁舎、公務員宿舎、再定住住居、等 | 医療、教育、職業訓練 |
医療、教育、職業訓練、文化、スポーツ、旅行、科学技術、気象学、IT応用 | ITインフラ |
商業インフラ、都市圏・経済地域・工業地域などのインフラ、ハイテクインフラ、インキュベーター施設及び、中小企業を支えるコワーキングオフィス等 | [規定なし] |
農業及び農村開発、農産物の加工及び販売を生産に結びつけるサービス | [規定なし] |
その他政府首相の決定による分野 | [規定なし] |
なお、PPP法の国会審議では、発電所及び送電システムの建設について、国家が国家送電システム及び大規模で経済・社会・国防・安寧の観点から特に重要な発電所の建設・運営を独占するという電力法の規定(第4条第2項)に矛盾するという理由から、PPP法の対象から外すべきという意見もあったが、最終的に「(水力発電所及び電力法に定める国家独占の場合を除く)」という限定を付すことで、上記の独占の対象にならない小規模な火力発電所や局地的な送電網の建設などは対象として残ることになった。
②につづく