◇SH3070◇公益通報者保護法の改正案が閣議決定、国会に提出 蛯原俊輔(2020/03/24)

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公益通報者保護法の改正案が閣議決定、国会に提出

岩田合同法律事務所

弁護士 蛯 原 俊 輔

 

1 はじめに

 令和2年3月6日、公益通報者保護法(以下「本法」という。)の改正案(以下「本改正案」という。)が閣議決定され、同日、国会に提出された。本法に定められる公益通報者保護制度(以下「本制度」という。)とは、いわゆる内部告発のうち本法に規定する公益通報に該当するものについては、一定の要件の下、公益通報者の保護を図るという制度である。

 本改正案では、①事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して公益通報を行いやすくする、②行政機関等への公益通報を行いやすくする、及び③通報者が保護されやすくするという3つの観点から、改正がなされている。

 以下では、①、②及び③それぞれの改正内容について、解説を行う。

 

2 ①事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して公益通報を行いやすくする

 本改正案では、事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して公益通報を行いやすくするため、事業者に対して、公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(通報窓口、内部調査や是正措置の実施といった公益通報対応業務に従事する者の設定等。)を義務付けることとされている(ただし、従業員数300人以下の事業者においては、努力義務。)。

 また、その実効性確保のために行政措置(助言、指導、勧告及び勧告に従わない場合の公表。)も導入することとされている。

 さらに、事業者において、公益通報対応業務に従事する者に対して、通報者を特定させる情報について、守秘義務を定め、この義務に違反した場合は刑事罰が科されることとなっている。

 

3 ②行政機関等への通報を行いやすくする

 本制度における通報先としては、当該事業者内部、行政機関及び事業者外部(その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者。報道機関、労働組合、事業者団体等)の3つが規定されており、これらの通報先に公益通報する場合において、本制度によって保護されるための要件が、それぞれ、本法に規定されている。

 この点、行政機関に対する公益通報については、これまで、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合に限定されていた。しかし、本改正案では、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料しているにすぎない(信じるに足りる相当の理由がない)場合であっても、自己の氏名や住所等を記載した書面を提出して行政機関に対して公益通報を行うときについては、本制度による保護の対象となることとされている。

 また、報道機関等の事業者外部に対する公益通報に関しては、事業者内部に公益通報をすれば、公益通報者について知り得た事項を漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合や、回復不能若しくは多額の財産的損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合についても、本改正案では、本制度の保護の対象となることとされている。

 

4 ③通報者がより保護されやすくする

 以下のとおり、本改正案では、通報者が保護されやすくするため、保護される人、保護される公益通報及び保護の内容について、保護の対象となる範囲が拡充されることとなっている。

 

対象 現行法 本改正案
保護される人 労働者のみ 退職者(退職後1年以内)、役員を追加
保護される通報
(通報対象事実)
刑事罰の対象となる事実 行政罰の対象となる事実を追加
保護される内容 解雇の無効、その他不利益な取扱い(降格、減給等)の禁止 通報を理由とした損害賠償責任の免除を追加

 

5 終わりに

 本改正案が成立することとなった場合、今まで以上に公益通報制度が積極的に利用されることが想定される。事業者においては、前述のとおり、公益通報に対応するために必要な体制の整備が義務付けられるため、いわゆるヘルプライン制度など内部通報に対応する体制の整備や拡充がより一層重要になると思われる。

以 上

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