会社法の一部を改正する法律案の可決成立
弁護士 伊 藤 広 樹
本年6月20日、会社法の一部を改正する法律案が可決成立した。平成22年2月24日の法務大臣による法制審議会への諮問から約4年が経ち、数々の議論を経てついに成立の日を迎えることとなった。
正式な施行日は未定であるものの、翌年4月1日が有力であるとされていることから、各社においては、早期の対応が必要になることが見込まれる。
改正会社法において見直される事項は、概要、①ガバナンス、②M&A、③その他に大別される。そして、これらの中でも、特に実務上の影響を及ぼす事項の一つとして、上記①のガバナンスのうち、社外取締役の設置に関する規律が挙げられよう。
即ち、改正会社法では、事業年度の末日において社外取締役を設置していない会社の取締役に、当該事業年度に関する定時株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務を負わせることとしている(同法327条の2)。この他、法務省令では、「社外取締役を置くことが相当でない理由」について、事業報告及び株主総会参考書類における開示義務が定められる予定であるとされている。
そして、この説明義務・開示義務の対象は、「社外取締役を置かない理由」ではなく、「社外取締役を置くことが相当でない理由」であることに留意する必要がある。この点に関して、「社外監査役が2名以上あることのみをもって『相当でない理由』とすることはできない」旨が法務省令において定められる予定であるとされているが、「相当でない理由」の文理解釈からすると、妥当な内容であろう。
社外取締役を置くことが相当でない理由 |
① 定時株主総会における説明義務(改正会社法327条の2) ② 事業報告における開示義務(法務省令(予定)) ③ 株主総会参考書類における開示義務(法務省令(予定)) ↓ 社外監査役が2名以上あることのみをもって「相当でない理由」とすることはできない(予定)。 |
このように、社外取締役の設置については、中間試案の段階ではこれを義務付ける案も提案されていたものの、結果的に義務付けには至らなかった。しかしながら、株主・投資家が納得する「社外取締役を置くことが相当でない理由」を合理的に説明することは決して容易ではなく、また、証券取引所規則では、先行して、取締役である独立役員を1名以上確保することについての努力義務が定められていることや、改正会社法附則25条では、改正会社法施行後2年経過後に社外取締役の設置義務付けの措置が講じられる余地が定められていることからすると、実質的には、社外取締役の設置が(「法的義務」ではないものの)「原則」であると言えよう。
実際に、東京証券取引所市場第一部上場会社のうち社外取締役を選任する会社の比率は、62.3%(平成25年)から74.2%(平成26年(速報ベース))へと急増しており(株式会社東京証券取引所「東証上場会社における社外取締役の選任状況<速報>」(本年6月17日付け))、社外取締役を設置する会社が大半になっている。さらに、政府が新成長戦略に盛り込んだ「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」により複数の独立社外取締役導入を促すことが予定されており、今後は、社外取締役の設置自体の是非ではなく、欠員が生じた場合への備えや、より一層のガバナンス強化の観点から、その複数選任の是非が論点となり、また、単なる「社外性」のみならず、その「独立性」にも着目されることになるものと考えられる。
以 上
伊藤広樹(いとう・ひろき)
岩田合同法律事務所弁護士。2004年早稲田大学法学部卒業。2006年早稲田大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。2013年8月まで西村あさひ法律事務所に在籍後、現職。著作には、『会社法実務解説』(共著 有斐閣、2011)、『Q&Aインターネットバンキング』(共著 金融財政事情研究会、2014年)等。