◇SH0138◇営業秘密管理指針改訂案に対する意見募集 大櫛健一(2014/11/19)

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営業秘密管理指針改訂案に対する意見募集

岩田合同法律事務所

弁護士 大 櫛 健 一

 経済産業省経済産業政策局知的財産政策室は、平成26年11月10日、経済産業省が公表している「営業秘密管理指針」(以下「本指針」という。)の改訂案(以下「本改訂案」という。)に対する意見募集を開始した。本指針は、もともと「企業が営業秘密に関する管理強化のための戦略的なプログラムを策定できるよう、参考となるべき指針」として平成15年1月に策定されたものであり、その後、経済産業省は、裁判例の蓄積や不正競争防止法の改正に対応した改訂を既に4回実施している。

 本指針は、不正競争防止法による保護の対象となる「営業秘密」、すなわち、「営業秘密」の定義(不正競争防止法2条6項)から導かれる3要件(下図参照)を満たす技術上、営業上の情報の考え方について説明するとともに、この「営業秘密」の考え方に基づきつつも、秘密管理に関するベストプラクティス・普及啓発等の観点も踏まえて、物理的・技術的管理及び人的管理その他組織的管理の基本的な考え方や在り方等といった様々な視点から、経済産業省としての「あるべき情報管理」の考え方を詳細に示したものとなっている。

経済産業省経済産業政策知的財産政策室 平成25年8月付「営業秘密と不正競争防止法」より抜粋

 もっとも、本指針については、近年、一部の裁判例[1]等において秘密管理性の認定が厳しいとの指摘や認定の予見可能性を高めるべきといった指摘がなされており、知的財産推進計画2014(平成26年7月知的財産戦略本部決定)においても「法的に営業秘密として認められるための管理方法について、事業者にとってより分かりやすい記載とするよう改める」旨が記載された。本改訂案は、これらを受けて本指針を全面改訂しようとするものである。

 具体的な改訂内容としては、上述のとおり現在の本指針においてはベストプラクティス・普及啓発等の観点も踏まえた「あるべき情報管理」の考え方を示したものとなっているところ、本改訂案は、「営業秘密」の3要件に関する経済産業省としての理解ないし法解釈を示すことに特化しており、「あるべき情報管理」の考え方や漏えいないし漏えいが疑われる事案が発生した場合の対応の在り方等については、別途策定する「営業秘密管理マニュアル」(仮称)によって対応する予定であるとされている。その結果、現在の本指針は86頁にも及ぶ相当量の文書となっているが、本改訂案においては19頁にスリム化されている。

 本改訂案にも記載されているとおり、本改訂案に記載された「営業秘密」に関する法解釈は、経済産業省が示す一つの考え方に過ぎず、法的拘束力を持つものではない。しかしながら、各種の法令に関して示された他の指針又はガイドラインと同様に、今般の改訂によって策定された経済産業省としての法解釈は、実務上の基準として定着していくことが見込まれる。その結果として、裁判所がかかる法解釈と異なる見解を採用する可能性も低くなっていくことが予想されよう。

 本改訂案に対する意見募集を経て、今般の本指針の改訂が最終的にどのような内容として策定されるかは、不正競争防止法における「営業秘密」の法解釈について大きな影響を与え得るものと考えられるところであり、今後の動向が注目される。

以 上

 

[1]  例えば、東京地判平成25年2月27日(平成22年(ワ)16330号。公刊物未搭載)等がこれにあたると考えられる。

(おおくし・けんいち)

岩田合同法律事務所弁護士。2004年上智大学法学部卒業。2006年弁護士登録。主に、流動化・証券化取引、各種金融機関規制法(銀行法、金融商品取引法等)の検討等のファイナンス案件を専門とする。店頭デリバティブ取引やノックイン型投資信託をはじめとした金融商品の販売に関する訴訟等の紛争解決案件も数多く手がける。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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