◇SH0251◇名古屋高裁、債務者の転居届提出の有無等に関する弁護士会照会に対する報告拒絶で不法行為責任 永口学(2015/03/11)

未分類

名古屋高裁、債務者の転居届提出の有無等に関する
弁護士会照会に対する報告拒絶で不法行為責任

岩田合同法律事務所

弁護士 永 口   学

 弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集し、事実を調査するなど、その職務活動を円滑に行うために設けられた法律上の制度である(弁護士法23条の2)。個々の弁護士が行うものではなく、弁護士会が照会を行う点に特徴があり、「23条照会」と呼ばれることもある。近時、金融機関等が、守秘義務等を理由に弁護士会照会に対する報告を拒絶したことに対し、損害賠償請求訴訟が提起される事例が相次いでいるが、その中で、名古屋高判平成27年2月26日(以下「本判決」という。)は、日本郵政が愛知県弁護士会からの照会に拒絶した(以下「本件拒絶」という。)ことが不法行為にあたるとして、日本郵政に対して損害賠償を命じる判決を示した。

 本判決における争点は多岐に亘るが、(A)本件拒絶における正当な理由の有無、(B)日本郵政の過失の有無及び(C)愛知県弁護士会らの権利侵害の有無について以下のような判断が示されている。

 まず、(A)正当な理由につき、本判決は、照会事項ごとに、これを報告することによって生ずる不利益と報告を拒絶することによって犠牲となる権利を実現する利益との比較衡量を行うべきであるとした上で、転居届に係る情報については、社会生活において開示されることが予定されているとする一方、照会事項であった①債務者宛ての郵便物についての転居届の提出の有無、②転居届の届出年月日及び③転居届記載の新住所(居所)[1]については、強制執行をするに当たり、これらを知る必要性が高いと判断し、上記①~③については弁護士会照会に対する報告義務が法令上の守秘義務に優越するので本件拒絶に正当な理由はないとした。

 次に、(B)過失につき、本判決は、最高裁判例がなくとも日本郵政には予見可能性があったと認定した上で、日本郵政のような照会先の負担の軽減等については、弁護士会による制度の適切な運営や日本郵政を含めての協議や申合せをすることなどによって解決されるべきであることなどを指摘し、過失を認めた。

 最後に、(C)権利侵害につき、本判決は、愛知県弁護士会の照会に基づく報告義務が履行される利益は法的保護に値する利益であるとして、権利侵害を認めた[2]

 正当な理由と権利侵害の考え方は、同様に転居届の有無等に関する弁護士会照会に対する回答拒絶が問題となった東京高判平成22年9月29日(判タ1356号227頁)と共通するところであるが、本判決は、最高裁判例がなくとも一定の場合には過失が認められるという判断を示した点や弁護士会からの損害賠償請求を実際に認容した点で、より一歩踏み込んだ判断を示した事例といえる。

以上

〔先例となる東京高判及び本判決原審の概要〕

判決

請求内容

結論

事案及び判決要旨

東京高判平成22年9月29日判タ1356号227頁

回答拒否に対する(照会を申し立てた弁護士及びその依頼者個人による)損害賠償請求

控訴棄却(損害賠償請求を認めず)

【事案】日本郵便に対し、債務名義に基づく強制執行のために債務者の居住地を正確に知る必要があるとして、転居届の有無や転居先等につき照会するも、報告拒絶。

【要旨】照会事項のうち転居届の有無、転居先等は秘密性が低く守秘義務よりも報告義務が優越し、義務違反があるが、筆跡等は動産執行にとって必要性が低く、義務違反はない。義務違反については過失があるが、弁護士会照会の権利、利益の主体は、弁護士会に属するものであり、個々の弁護士及びその依頼者は、その反射的利益として享受するにすぎないから、個々の弁護士・依頼者との関係で不法行為を構成しないと判示。

ただし、「この判決を契機として、本件照会に改めて応じて報告することを要請したい。また、・・・23条照会に応ずる態勢を組むことを切に要請したい」とも判示。

本判決原審(名古屋地判平25年10月25日金法1995号127頁)

回答拒否に対する損害賠償請求

請求棄却

【事案】日本郵便に対し、債務名義に基づく強制執行が奏功せず、転居届の有無及び転送先の住所等について照会するも、報告拒絶。

【要旨】公法上の義務は肯定し、情報の秘匿性、報告の必要性に鑑みれば守秘義務に優越するとして正当な理由はなかったと判示。しかしながら、最高裁判例の欠如などを理由に過失を否定。

 



[1]  これら①から③のほか、④転居届記載の新住所(居所)の電話番号も照会事項とされていたが、①~③の情報があれば別途報告を求める必要性があったとはいえないとされた。

[2]  本訴では、愛知県弁護士会とともに依頼者個人についても控訴人(原告)となっていたが、依頼者個人の報告によってもたらされる利益は事実上の利益に過ぎないとして、権利侵害が否定されている。

 

タイトルとURLをコピーしました