◇SH0191◇日本マクドナルド、商品の異物混入対策について 鈴木正人(2015/01/21)

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日本マクドナルド、商品の異物混入対策

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 正 人

 日本マクドナルドは、2015年1月7日、商品の異物混入について公表を行った。近時、食品産業や外食産業等で商品(食品)への異物混入について複数の事例が公表され、マスコミや世間の関心が高まっている。

 そこで、消費者からの問い合わせや社内調査により商品の異物混入が判明した場合の企業による公表の要否について概説する。

 この点、未認可の添加物が混入した食品を販売・継続した事案について、大阪高判平成18・6・9(判時1979号115頁)は、「現に行われてしまった重大な違法行為によって企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討すること」が経営者に求められていたとした上で、当該販売・継続の事実を後から知った取締役について、「『自ら積極的には公表しない』という方針を採用し、消費者やマスコミの反応をも視野に入れた上での積極的な損害回避の方策の検討を怠った点は善管注意義務違反」であると認定している。そこで、不祥事が判明した場合、役員には企業の信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討する義務があり、その1つの方策として公表という手段があると評価できる(他に、対象商品(異物混入の可能性がある商品を含む)の回収、原因究明、再発防止策の策定・実施などの方策が考えられる。)。

 一方で、法令上、商品の異物混入の判明時における公表の要否に関して具体的な基準は見当たらない。そこで、以下、公表の要否を検討するに当たり、多くの考慮要素があるが、参考になりうる視点について以下私見を述べる。

 この点、不祥事のうち個人データの漏えいに関し、「金融機関における個人情報保護に関するQ&A」(金融庁)は、金融分野における個人情報取扱事業者に対して、二次被害の防止・類似事案の発生回避等の観点から、漏えい事案等の事実関係及び再発防止策等の早急な公表の実施を原則として義務付けるとともに、公表によりかえって二次被害を誘引する場合など、個人の権利利益を保護するため公表しない方が望ましいと認められるような場合には例外的に公表が不要であるとしている(問Ⅴ-15参照)。当該事項は異物混入事案に直接適用されるものではないが、二次被害の防止・類似事案の発生回避等の観点は商品の異物混入の公表の要否の検討にも参考になると考えられる。また、個人情報保護法は個人の権利利益の保護を、食品衛生法は、飲食に起因する衛生上の危害発生防止、国民の健康の保護をそれぞれ目的としている(各法1条)。そこで、商品の異物混入の公表の要否の検討に当たり国民の健康(消費者の生命、身体、財産)の保護の観点も参考になると考えられる。

 なお、上場会社グループにて異物混入が判明した場合には、決算予想値の変動や「上場会社の運営、業務もしくは財産または上場株券等に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」などの適時開示事由への該当性の検討も必要となる。

 

近時の異物混入(のおそれ)関係の自社公表事例

事案

公表時期

概要

「ペヤングソースやきそば」異物混入

2014年12月

カップ麺への昆虫の混入。

日本マクドナルド商品への異物混入

2015年1月

販売商品への異物(ビニール片、プラスチック片など)の混入に関する顧客の申出。

「ワタミの宅食」商品異物混入

2015年1月

ワタミタクショク販売商品への異物(金属)の混入。

和光堂商品異物混入

2015年1月

販売商品への異物(虫)の混入。

 

(すずき・まさと)

岩田合同法律事務所パートナー。2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局に在籍。『FTACA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、『Q&Aインターネットバンキング』(共編著 金融財政事情研究会、2014年)等著作多数。

岩田合同法律事務所

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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〒100-6310 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング10階  電話 03-3214-6205(代表)

 
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