平山ホールディングス、第三者委員会調査報告書を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 山 田 康 平
1. はじめに
株式会社平山ホールディングス(以下「平山HD」という。)は、2018年7月にFUNtoFUN株式会社(以下「FTF社」という。)の全株式を取得して連結子会社化し、2019年7月以降に株式会社大松自動車(以下「大松自動車」という。)についても民事再生手続のスポンサーとして全株式を取得して連結子会社化を予定していたところ、2019年6月期決算の過程において、会計監査人である有限責任監査法人トーマツから指摘を受け、FTF社が2018年9月から2019年6月までを役務提供期間として行ったコンサルティング業務に係る売上取引(以下「本件コンサル取引」という。)について、実在性に疑義があることが判明した。そこで、平山HDは、2019年8月2日、外部専門家によって構成される第三者委員会(以下「本件第三者委員会」という。)を設置し、本件第三者委員会により、本件コンサル取引を含む複数の会計処理について調査が行われた。
2019年9月9日、本件第三者委員会による調査報告書が公表された。当該調査報告書は、ガバナンスの観点から、多くの会社の教訓となる内容を含むものと考えられるため、その概要を紹介することとしたい。
2. 本件で調査の対象となった取引の概要等
本件で調査の対象となった取引の概要等は以下のとおりである。
調査の対象となった取引 |
会計処理の妥当性に関する 本件第三者委員会の見解 |
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1 |
FTF社が計上した本件コンサル取引の売上40百万円 |
収益計上は認められない。 |
2 |
大松自動車の元取締役であるE氏とF氏をFTF社で雇用して大松自動車に労働者派遣したとして2019年4月から6月にかけてFTF社が売上計上した派遣売上2.2百万円 |
収益計上が認められないと判断される可能性がある。 |
3 |
FTF社に在籍していたG氏がFTF社を退社して大松自動車に入社する際にFTF社がG氏を大松自動車に紹介したとして2019年6月にFTF社が売上計上した有料職業紹介売上1.4百万円 |
収益計上が認められないと判断される可能性がある。 |
4 |
大松自動車の全従業員約60名がFTF社に転籍すると同時に大松自動車に労働者派遣したとして2019年6月にFTF社が売上計上した労働者派遣売上10.9百万円 |
収益計上は認められない。 |
3. 本件の主な発生原因
(1) グループ戦略本部に対する牽制機能の問題
本件は、いずれもFTF社と大松自動車の間で行われたFTF社に売上を計上する取引であり、平山HDのM氏という人物が主導したものであった。
本件第三者委員会は、M氏が、当時、平山HDのグループ戦略本部長(経営企画部門として企業価値の向上に向けた攻めの活動を行う役職)とグループ管理本部長(管理部門として守りの活動を行う役職)を兼務しており、平山HDに、FTF社や大松自動車に関するM氏の活動に対する日常的な牽制機能を発揮する組織や機関が存在しなかったことを本件の原因の一つとして指摘している。
(2) FTF社におけるコンプライアンス態勢の問題
本件で調査の対象となった取引は、平山HDの傘下に入って以降、業績の振るわなかったFTF社に対して、M氏から業績改善のアイデアとして提示されたものであった。
上場会社グループの傘下に初めて入ったFTF社にとって、親会社である平山HDの声を代弁する存在ともいえるM氏の提案を重視するのはある意味当然ともいえるが、あくまでも取引の主体はFTF社であるから、FTF社は自ら主体的に検討し、適切な判断を行う必要があったとして、本件第三者委員会は、FTF社のコンプライアンス態勢が的確に機能していなかったことを本件の原因の一つとして指摘している。
4. まとめ
攻めの活動を行う役職と守りの活動を行う役職とを兼務することが不正を招くリスクを伴うことはしばしば指摘されるところである。また、子会社が親会社の提案を鵜呑みにしてはならないというのも、忘れてはならない重要な指摘といえる。本件は、このようなガバナンスの観点から、多くの会社の教訓となると思われるので、その概要を紹介した次第である。
以 上