実学・企業法務(第156回)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
1. 業界の特徴
(2) 不動産取引業界の特徴
1) 不動産取引業は、アセット型とノンアセット型に大別される
アセット型: 不動産に資金を投じて商品にする不動産開発、分譲、賃貸等
ノンアセット型: 不動産関連のサービス業(管理、取引仲介、販売代理等)
- (注) 不動産開発は1~3年を要することが多く、購入時と発売時の不動産相場が業者の利益に大きな影響を与える。
2) 土地の価格は、それを用いる目的によって複数存在する。
公示価格(土地取引の指標になる[1])
都道府県基準地価格(地方の調査地点が多く、都市部が多い公示価格を補う)
路線価(相続税評価額)
固定資産税評価額(市町村が公示価格の70%をめどに調整し、原則として3年に1度評価替えする)
実勢価格(実際の取引価格)
- (注)「不動産鑑定評価基準(国土交通省)」は、試算価格[2]の算定について、原則として、原価法(再調達原価を求めて、耐用年数等により減価修正する)、取引事例比較法(近隣事例を集めて、事情・時点・地域の要因を補正・修正等する)、収益還元法(将来期待される純収益の現在価値の総和を求める)の手法を用いて鑑定評価を行うこととし、案件に則して適切な手法を適用する。
3) 近年、資産の流動化に関する法律(SPC法)等の証券化技術・制度が発展し、不動産の証券化が進んでいる
4) 不動産取引においては、さまざまな法律が関係する (例)
取引:不動産登記法、宅地建物取引業法(免許制度)、建物の区分所有等に関する法律
建築物:建築基準法、品確法[3]、消防法
用途制限:国土利用計画法、都市計画法、大都市法[4]
賃貸:民法、借地借家法(定期借地権、定期借家権を含む)、消費者契約法
税金:不動産取得税、登録免許税、固定資産税、都市計画税、売却益への課税、
- 契約書への印紙税、消費税(土地は対象外だが、建物売買・造成工事・建築工事は課税対象)、住宅ローン減税
5) さまざまなビジネス・モデルが存在する
-
・ 不動産分譲事業の業務フロー
物件企画・用地確保(土地売買契約、代金支払)
→ 企画設計、整地・造成・(建築工事[5])
→ 販売活動(チラシ配布、モデルルーム設置等)、成約[6]
→ 物件引き渡し、代金回収 -
・ 不動産賃貸業の業務フロー
物件の取得・建築
→ 販売活動(広告・仲介等を委託することが多い)、テナントの獲得・賃貸借契約
→ 敷金・保証金等の収受
→ テナント入居
→ 家賃収入、維持管理
→ 契約期間満了、原状回復、家賃等残金を精算
[1] 「地価公示法(1969年制定)」に基づいて、選定した標準地の正常価格を毎年1回、2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を土地鑑定委員会(国土交通省)が審査・判定して公示する(2条、12条)。
[2] 「不動産鑑定評価基準(国土交通省)」は、試算賃料(賃貸)の鑑定評価について、「新規賃料」の場合は積算法・賃貸事例比較法・収益分析法等、「継続賃料」の場合は差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法等によるものとしている。
[3] 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の略称。1999年制定
[4] 「大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法」の通称。1975年制定
[5] 日本では一般的に、建築業者に依頼する。
[6] 物件が完成する前に売買契約を締結して10%程度の「手付金」を払う例もある。民法557条参照。