シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(6)
-神戸地判平成26年10月16日-
一般財団法人 日本品質保証機構
参与 丹 羽 繁 夫
(2) 被告H.K.及び被告H.H.の義務違反について
① 「MBOの合理性確保義務」違反の有無
-創業家一族及びMSは、じり貧状態にある経営の現状を打破し、シャルレブランドの認知度向上と浸透拡大を図るため、両者が同社を支配する体制への移行及び同社株式非上場化を企図し、その手順として本件MBOを計画し、実行に移したなどの経緯等に照らすと、同社が本件MBOを立案、計画したこと自体は、1つの経営判断として不合理な選択であったとはいえない上、その手法についても上記企図に沿う内容のものであって、専ら自己又は第三者の利益を図るために行われた形跡は見当たらない。そうすると、被告H.K.らには、「MBOの合理性確保義務」に違反する事実は認められない(49、50頁);
② 「MBOの手続的公正さの確保に対する配慮義務」違反の有無
-MBO基本契約が締結された翌9月19日当時、同社の発行済株式は、創業家一族、公開買付者らが合計で総議決権の55.7%を保有していたのに対し、本件MBOの実施後は、公開買付者らの発行済株式の100%を実質的に保有するTomorrowの株式について、創業家一族が49.2%を取得し、MSが50.8%を保有する計画であったことに加え、本件MBO実施後に被告H.K.が取締役に就任することが予定されていた事情に照らすと、被告らには少なくとも通常期待される程度の配慮義務を尽くすことが求められていた(51、52頁);
-被告H.K.は直ちに、自らに代わって、利益相反関係に立たない社外取締役らを本件公開買付価格の決定プロセスに関与させる一方、公開買付者らによる手続関与をできる限り少なくした上、社外取締役を中心として、KPMG FASの株価算定結果やその基礎となる事業計画の見直しの要否等について検討を尽くさせ、これを決定する環境を整えるべきであった(56頁);
しかしながら、
-被告H.K.は、本件MBOを頓挫させないためには、自らの主導の下、本件公開買付価格につき「700円ありき」を前提に、各利益計画の数値やKPMG FASによる株価算定方法を操作することにより、株価算定結果を公開買付者らの想定価格に近づけるよりほかないものとして、あからさまに公開買付価格の形成に影響を及ぼそうとしたものである。そうしてみるとかかる被告H.K.の対応は、株主に対し、本件公開買付価格の決定プロセスにおいて、その利益相反的な地位を利用して情報等を操作して、不当な利益を享受しているのではないかとの重大な疑惑を生じさせるに余りあるものであって、本件公開買付価格の決定手続の公正さを大きく害するものであったといわざるを得ない。被告H.K.のこのような対応は、「MBOの手続的公正さの確保に対する配慮義務」に違反する(56、57頁)。
被告H.H.の義務違反について
-被告H.H.は、被告H.K.がOに対するメール送信指示行為により、本件公開買付価格に不当な影響を及ぼそうとしていることを認識し、あるいは容易に認識し得たにもかかわらず、これを止めることなく漫然放置したものといわざるを得ない。そうだとすると、被告H.H.は、同社取締役として、「MBOの手続的公正さの確保に対する配慮義務」を尽くしたとはいい難く、このような被告H.H.の対応は同義務に違反するものである(57、58頁)。