国交省、「特定空家等に対する措置」に関する
適切な実施を図るために必要な指針を発出
岩田合同法律事務所
弁護士 土 門 高 志
国土交通省は、平成27年5月26日、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成26年法律第127号)(以下「法」という。)の全面施行にあわせ、同法14条14項に基づく「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」(以下「本件ガイドライン」という。)を公表した。以下、法及び本ガイドラインの内容を概観する。
近年、人口減少や既存建物の老朽化等に伴い、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他土地に定着する物を含む。)」(法2条1項)(以下「空家等」という。)が年々増加し(別表参照)、防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしている。これを受け、平成26年11月27日に法が制定・公布され、その中では、空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)が空家等の適切な管理について第一義的な責任を有することを前提としつつ(法3条)、住民に最も身近な行政主体であり、個別の空家等の状況を把握することが可能な市町村が空家等に関する対策を実施することが定められている(法4条)。
法は、地域住民の生命・身体・財産の保護、生活環境の保全、空家等の活用促進といった目的(法1条)を達成するため、市町村による空家等への一定の調査(法9条)及び空家等の所有者等を把握するための固定資産税情報の内部利用(法10条)を認め、また、地域への悪影響が特に懸念される「特定空家等」(法2条2項)[1]に対しては、その除去や修繕等の必要な措置を行うよう、市町村長が助言、指導、勧告、命令を行うものとし、所有者等が従わない場合には、行政代執行等の強制的措置を認めた(法14条各項)。
これにより、市町村は、地域に悪影響を及ぼし得る特定空家等に対して強制力を伴った措置が可能となり、法による規制の実効的な運用に資するものと期待されるが、かかる措置は、強い公権力の行使を伴うものであるところ、その手続についての透明性及び適正性の確保が求められる。
本件ガイドラインは、そのような透明性・適正性確保の観点から、特定空家等の判断に参考となる基準や特定空家等に係る手続について参考となる一般的考え方を示すものである。例えば、特定空家等の定義は、「危険となるおそれ」等の、一定の評価を要する概念を含んでいるところ、具体的事案における上記定義への該当性判断には困難も予想されるが、本件ガイドラインは、その別紙1から別紙4において、建築物の客観的状態等に着目した具体的基準を提示しており、特定空家等に係る規制の適用基準の透明性・適正性の確保に資するものである。
我が国が人口減少の時代を迎え、今後、空家等のさらなる増加が見込まれる中、その適切な管理は社会にとって喫緊の課題であるが、他方で、法は、特定空家等の所有者等に従来よりも重い負担を強いる側面を有する。空家等に該当する遊休資産を保有する企業にとっても、仮に所有する空家等が特定空家等と認定された場合には、その除去や修繕を強いられることになる。そのため、空家等を所有又は管理する企業としては、本件ガイドラインの内容にも留意し、空家等を適切に維持管理し、場合によっては処分する等の対応が必要となり、法及び本件ガイドラインの内容を予め把握しておくことが重要であるから、ここに概要を紹介するものである。
出典:総務省統計局公表の平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約より抜粋
(http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/10_1.htm)
[1] 「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」を意味する。
(どもん・たかし)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2004年東北大学法学部卒業。2006年弁護士登録(59期)。2012年Northwestern University School of Law修了(LL.M.)。主な取扱分野は、ファイナンス取引、渉外取引全般、及び独禁法関連事件等。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
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