◇SH2091◇タイ:電子商取引(Eコマース)に関する規制の現状 箕輪俊介(2018/09/14)

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タイ:電子商取引(Eコマース)に関する規制の現状

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 ウェブショッピングを中心とした電子商取引は近年世界各地で勢いを増しているが、このことはタイにおいても例外ではない。Amazonはタイに未だ本格進出していないものの、Alibaba資本のプラットフォームであるLazadaは利用客を増やしており、シンガポール発のShopeeやSNSを通じた販売ビジネスも多くの利用者を集めている。本稿では、これらの電子商取引に関連する法規制を概観する。

 

外資規制

 電子商取引には大きく分けて二つの類型がある。ひとつは、①アマゾンが行っているような、自ら商流に入る(自らが売主となる)類型である。もうひとつは、②自ら商流に入らず、売り手と買い手にウェブサイト上の「場」を設けた上で、決済や運搬等の手続を支援する類型(いわゆるプラットフォームの類型)である。後者の典型例のひとつとして、日本で楽天が運営している、「楽天市場」が挙げられる。以下では主に後者を想定して議論する。

 まず、タイ国内で法人を設立する場合、このようなプラットフォーム事業者は、プラットフォームを利用する者(買主又は売主)やウェブサイトに広告を載せている広告主から、プラットフォームの利用時、又は、決済成立時に手数料や広告収入を得ているため、サービス業に該当し、外資規制の対象となるものと解される。外資規制の適用を避けるためには、①外資規制の適用がない、内資ステータスの企業を設立する、②商務省から外国人事業ライセンス(foreign business license)を取得する、又は、③タイ投資委員会(BOI)から投資奨励認可を取得した上で、商務省から外国人事業許可(foreign business certificate)を取得するという方法(後述)が考えられる。

 つぎに、タイ国外で法人を設立し、プラットフォーム事業を行う場合(いわゆる越境ECの場合)、外資規制の適用があるか否かは明確ではない。この点、自ら商流に入る場合は、タイ国外からの輸入事業は原則として外資規制の対象とならないため、タイにて在庫をストックする拠点等を構えるなどしてタイ国内で小売業又は卸売業を行っていると判断されない限り、外資規制の対象とならないものと解される。これに対して、プラットフォーム事業の場合にどのような場合において外資規制の適用があり、どのような場合に外資規制の適用がないのかについて、明確に基準を定めた政府の公式見解や法令は本稿執筆時(2018年8月時点)にはない。

 

税制

 税制については、特に越境ECに対する課税の議論が盛んである。昨年から今年にかけて活発な議論が交わされており、2018年7月17日、財務省によって提案された法案が閣議承認された。当該法案では、越境EC業者はVAT登録をしなければならず、VAT登録をしていない者に対するタイにおける売上(法案からは明確ではないが、卸売ではない、一般消費者に対する販売の売上が想定される)についてVATを納付しなければならないとされている。もっとも、上記の登録義務は全ての越境EC業者に適用があるのか明らかではなく、過去の議論の中では、例外要件等も検討されていたため、今後もその動向を注視していくべきである。また、越境EC業者に対する所得税の課税についても議論がなされている。

 

BOI

 BOIからの投資奨励カテゴリーとして「E commerce」が設けられているため、当該カテゴリーの認可取得が検討可能である。取得にあたり、特別の要件や条件は定められていないため、BOIの投資恩典を取得する際に求められる一般的な要件を充たしている限り、取得はさほど難しくないものと考えられる。BOIの担当官によれば、この恩典の対象になるのは、プラットフォームの類型のみであり、自ら商流に入る類型は恩典の対象外とのことである。現状、有力なプラットフォーマーのうち、LazadaやFood Pandaがこの恩典を取得している。このカテゴリーでは、税務恩典は設けられていないものの、外国人による100%の出資が可能となることや、奨励事業に従事する外国人のビザ及び就労許可に関する優遇(外国人1人に対してタイ人4人を雇用すること等の要件が適用されない)、外国人による土地所有の許可等の非税務恩典が対象事業に与えられる。

 

Direct Marketing Actとの関係

 昨年2017年のDirect Marketing Actの改正により、オンラインショッピングについては、Direct Marketing Actに基づく登録の義務が免除される方針が明らかにされた。どのような形態のオンラインショッピング事業であれば免除の対象となるのか、詳細は下位規則に委ねられる構成となっており、先般2018年2月に公表された規則案(未だ規則として成立していない)では、(1)電子商取引事業者のうち、電子商取引の年間の売上が180万バーツ以下の自然人又は(2)中小企業振興法(SMEs Promotion Act)に基づいて設立された中小企業若しくはCommunity Enterprise Promotion Actに基づいて設立された企業は、Direct Marketing Act による登録義務が免除されるとされている。この登録免除については、上述のとおり免除の要件が未だ規則として成立していないため、現段階ではDirect Marketing Act法の要件に当てはまる限り、全ての電子商取引業者はかかる登録を行う必要がある。

 

その他の論点

 オークション詐欺の取扱いや、利用規約の有効性、商標権侵害の場合や古物等取引にあたりライセンスが必要な製品がライセンスなく売買されている場合のプラットフォーム事業者の責任等については、日本では活発な議論がなされているが、タイでは十分な議論がなされているとは言い難い。これらについては、タイでも同様の問題が生じうるため、今後どのような議論がなされるのか、注視する必要があるだろう。

 また、電子商取引事業者はE-commerce registrationを行うことが義務づけられている点も併せてご留意いただきたい。

 

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