◇SH0361◇金融庁、「金融検査結果事例集」を公表 大浦貴史(2015/07/07)

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金融庁、「金融検査結果事例集」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 大 浦 貴 史

 金融庁は、平成27年6月26日、「金融検査結果事例集」を公表した。

 金融庁では、平成17年以降、金融検査において認められた事例を定期的(1年に1~2回)に取りまとめ、「金融検査結果事例集」として公表してきた。そのため、各事例集における掲載対象は、該当期間内における検査結果(新規事例)のみであったが、今般の「金融検査結果事例集」より、過去の検査結果についても、現状においても引き続き有用と思われる既存事例については掲載するとの方針転換が行われた。過去に公表した事例集の中から比較的新しい事例を中心に編集したものであり、本事例集に掲載されていない事例について、当局としてこれを重視していないことを必ずしも意味するものではないとの注記はされているものの、本「金融検査結果事例集」に掲載されている既存事例については注目すべきと思われる。

 一方、本事例集における新規事例については、「NEW」との表示がなされている。NEWとの表示がなされている事例[1]は、39事例であり、昨年の「金融検査結果事例集」に掲載された新規事例数(92事例)と比較してかなり減少している[2]

 平成25年9月の「金融モニタリング基本方針」策定以降、金融庁では、従来の金融検査の抜本的な見直しが行われており、「金融検査結果事例集」のほかに「金融モニタリングレポート」が公表されるようになっている。「金融結果事例集」の掲載方針の転換も、こうした金融検査手法及びその結果公表に係る抜本的な見直しの流れの中に位置づけられるものであろう。

 「金融検査結果事例集」の内容を網羅的に本タイムラインで採り上げることは困難であるため、本タイムラインでは、新規掲載事例のうち、グループガバナンス態勢に係る指摘事例を取り上げる。

タイトル:グループ経営方針等の策定

 取締役会は、反社会的勢力との取引排除というグループ一体となって取り組むべき課題に対して、関連会社の課題として不芳属性対応を認識していたにもかかわらず、グループ内で横展開しておらず、当該課題を子会社の各部任せにしている。また、取締役会は、限られた時間の中で経営判断に付すべきポイントが明確となっておらず、十分な議論が行える態勢を整備していないなど、グループ経営管理に係る重要事項を審議する会議体の運営において、グループガバナンスを有効に機能させる方策を講じていない(業態:銀行持株会社)。

 

 持株会社化のメリットの一つとして、子会社への権限移譲による迅速な意思決定等が挙げられるが、一方で、反社会的勢力との取引排除のような重要課題に関しては、グループ各社ごとに対応するのではなく、グループ一体となって対応することが求められている。平成27年5月1日に施行された改正会社法において、グループに係る内部統制システムの整備が法律事項に格上げされており、その重要性はますます増していくであろう。また、多数の子会社を抱え判断すべき事項の多い持株会社の取締役会において、限られた時間の中で十分な議論を確保するためには、持株会社経営陣の経営判断に付すべきポイントを明確化することが求められているといえよう。

 コーポレートガバナンス、さらにグループガバナンスは、引き続き重要課題とされる可能性が高いため、本「金融検査結果事例集」や、平成27年7月3日に公表された平成27年版「金融モニタリングレポート」を参照しつつ、更に検討を進めていくことが必要である。 

                                   

 

[1] 本事例集により初掲載された、前払式支払手段発行者及び資金移動業者に対する検査結果を除く。

[2] なお、昨年も、一昨年より減少しており、新規事例数はここ数年減少傾向にあるといえる。

 

(おおうら・たかし)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2007年慶應義塾大学、2009年慶應義塾大学法科大学院各卒業、2010年弁護士登録(新63期)。2014年~2015年金融庁検査局出向。金融・不動産関連法務を中心に、企業法務全般を幅広く取り扱う。著作:「Q&A 家事事件と銀行実務」(共著、日本加除出版、2013)、「Q&A インターネットバンキング」(共著、きんざい、2014)等。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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