企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
第2部 「経営管理システム」は「製品規格」の仕組みを参考にして作る
企業経営に関わる代表的な規格[1]に「製品規格[2]」と「マネジメントシステム規格」がある。
「製品規格」は、特定の製品が満たすべき要件(形状、寸法、性能、安全性等)を定めている。
- (注) 用語・記号・単位等を定める「基本規格」と、試験・分析・検査・測定・作業等の方法を定める「方法規格」が、「製品規格」の規定を精確なものにしている。
「マネジメントシステム規格」は、特定の組織(会社、事業場、工場等)が、それぞれの方針・目標を定め、その実現を図る際に適用することが望ましい業務の要件(組織、リーダーシップ、計画、経営資源、PDCAの管理のサイクル等)を定める。
規格に適合していることを第三者認証機関が認証した製品又は事業所には、所定の「マーク」を付すことが認められる。この「マーク」が製品又は事業所に付いていれば、購入者・使用者・取引相手等は、その品質を信用して取引することができる。
規格から外れた製品等は、認証が取り消される[3]だけでなく、悪質な「マーク」表示者には刑事罰が科されることがある[4]。
- (注) 日本の素材メーカーの品質データ不正事案においてJISマーク認証取消しが発生したのを受けて、2018年に、認証を受けずにJISマークを表示した法人等に対する罰金刑が加重された。
「製品規格」と「マネジメントシステム規格」の関係は、前者が市場で売られている花・野菜[5]で、後者はそれが育った畑と考えると、イメージしやすい。
蕾のまま開かずに枯れかけた花や、十分な大きさに育たなかった野菜は、商品価値が認められないので市場に出荷できない。このため、農家では生育環境に適する種子・苗を選んで植え、施肥・害虫駆除・日照管理等を行いながら育てる。
これに加えて、畑の土質[6]が適さなければ、中長期的に良い花や野菜は育たない。そこで、灌漑・排水・耕耘・酸度調整・消毒等を行って土壌を根本的に改良する。
こうして出来た良い畑からは、良い花や野菜が沢山採れるようになり、農作が事業として成り立つ。
1.「製品規格」の仕組みを各種の管理の軸にする
1990年代に工業製品の安全基準の国際化が進み、「製品規格[7]」が関係者の間で浸透した[8]。
安全・環境の分野には罰則を伴う強制規格[9]が多く、製品を設計・販売するときは最新の基準・規格に適合させなければならない。
ここでは、日本を代表するJIS規格[10]を取り上げて、「製品規格」の仕組みを学ぶ。
- (参考) 目立たないが重要な「正確な計量」の仕事
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一定の基準を満たす製品を生産(多くの場合、量産)するためには、開発・設計・製造で行う計測・検査において、計量の基準を定め、物象の状態の量[11]を適正に計る必要がある[12]。
試験・検査を適正に行うためには、統一の「単位」及び正しい目盛りがついた「計測器等」が必須である。①国は、最高精度の特定標準器を国家計量標準として保持する[13]。②校正サービス事業を行う校正機関[14]が保持する特定二次標準器の計測機能(目盛り)を、この特定標準器に等しく設定する。校正機関は、特定二次標準器を用いて実用標準器の目盛りを正しく設定し、この実用標準器を用いて、事業者・研究機関・大学・消費者等が業務・生活の現場で用いる計量器の目盛りを国家計量標準に一致させる。構造・使用条件・使用状況等からみた必要性に応じて、一定の計量器には定期検査が義務付けられている[15]。
また、計量器の検査その他の計量管理を適確に行うために、必要な知識経験を有する者(計量士国家試験合格者等)を「計量士」として登録する[16]。
計量は、目立たないが重要な仕事である。
[1] JIS Z8002に3.2(規格)の定義がある。本項では、一般の読者が理解しやすいと筆者が考えた方法で説明している。
[2] 製品規格は、製品の標準化、互換性確保、安全性確保、公共調達の基準等に用いられて産業の進展に貢献している。
[3] 主務大臣は、JISマークを付している鉱工業品がJIS規格に適合せず、又は、その製造品質管理体制が適正でないと認めるときは、JISマークの除去・抹消又は表示している製品の販売停止を命じることができる。(産業標準化法36条1項)
[4] 個人に1年以下の懲役又は100万円以下の罰金、法人に1億円以下の罰金(産業標準化法78条1号~4号、81条1号・2号)
[5] (花)菊、パンジー、ポピー、水仙、チューリップ、アジサイ、アヤメ等。(野菜)キャベツ、白菜、ほうれん草、きゅうり、茄子、ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ、エンドウ豆等
[6] 通気性、排水性、保水力、有機物、酸度、保肥性、石・雑草の種・細菌等の異物混入等
[7] 世界には多くの国際規格(ISO 、IEC等)、地域規格(EN ヨーロッパ規格等)、国家規格(JIS日本工業規格、DINドイツ工業規格等)、団体規格(JEC日本の電気学会規格、ASTMアメリカ試験材料協会規格等)、官公庁の物品購入規格が存在し、それぞれの国・地域の標準になっている。
[8] 1990年に、統一的な考え方に基づいて規格を作成する目的で ISO/IEC ガイド51(第1版)が発行され、現在では、「A 規格:基本安全規格」ISO12100を上位規格とし、電気系は IEC で、電気以外は ISOで、それぞれ「B 規格:グループ安全規格」および「C 規格:製品安全規格」が定められている。
[9] 揮発油等の品質確保法は、ガソリンについて鉛・硫黄分・MTBE・ベンゼン等の許容含有量を定め、これに適合しない製品の販売を禁止している。違反者には懲役刑又は罰金刑が科される。
[10] JIS規格への適合性の認証は、ISO/IEC Guide67(国際規格及びガイド)で定義されるシステム5に基づく第三者製品認証制度を定めたISO/IEC Guide28を基礎としている。(JIS1001:2009「適合性評価-日本工業規格への適合性の認証-一般認証指針」序文)
[11] (例:計量法2条より抜粋)長さ、質量、時間、電流、温度、光度、角度、面積、体積、速さ、加速度、周波数、回転速度、波数、密度、力、圧力、粘度、流量、熱量、熱伝導率、電気量、電界の強さ、電圧、起電力、静電容量、磁界の強さ、磁束、電気抵抗、インピーダンス、電力、電力量、輝度、照度、音圧レベル、濃度、放射能、繊度、比重、他
[12] 計量法1条、2条
[13] 日本では、大部分を国立研究開発法人産業技術総合研究所が保持し、一部を、国立研究開発法人情報通信研究機構、日本電気計器検定所、一般財団法人日本品質保証機構、一般財団法人化学物質評価研究機構が保持している。
[14] 公益財団法人日本適合性認定協会HPによれば29(2019年1月25日現在)の校正機関が認定されている。
[15] 計量法19条
[16] 計量法122条、125条