◇SH0373◇公取委、西日本私立小学校連合会等に対する警告等について 土門高志(2015/07/17)

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公取委、西日本私立小学校連合会等に対する警告等について

岩田合同法律事務所

弁護士 土 門 高 志

 公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、平成27年6月30日、西日本私立小学校連合会、京都私立小学校連合会(以下「京私小連」という。)、大阪府私立小学校連合会(以下「大私小連」という。)及び兵庫県私立小学校連合会(以下「兵私小連」という。)(総称して、以下「4団体」という。)に対し、独占禁止法第8条第1号[1]に定める事業者団体による一定の取引分野における競争の実質的制限に該当し同条[2]の規定に違反するおそれがある行為を行っていたとして、警告を行った。また、京私小連、大私小連及び兵私小連(総称して、以下「3団体」という。)に対し、後記の表に記載の各事実等に基づき、注意を行った。

 独占禁止法第8条第1号においては、事業者団体が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを禁止しており、公取委は、その違反に対しては、必要な排除措置及び(団体の構成事業者に対し)課徴金の納付を命ずることができるほか、違反する「おそれ」のある行為があったと認めた場合には、事業者団体に対して、その行為を取り止めることその他の必要な事項を指示する「警告」の措置を行うことができる(公正取引委員会の審査に関する規則第26条)。警告は、違反行為を認定するものではなく、(行政処分に該当しない)行政指導に当たるものとされている。

 さらに、公取委は、独占禁止法に違反するおそれがあるとまでもいえない場合であっても、将来的に独占禁止法違反につながるおそれがあると認められる場合には、「注意」を行うことがあり、実務上は、違反行為の未然防止等の観点より積極的に活用されている。

 今回公表された公取委の警告等によれば、警告又は注意の対象となった4団体の行為及び3団体に係る事実等の概要は以下のとおりである。

1.  警告の対象となった4団体の行為の概要

  1. ① 4団体は、それぞれ、総会又は理事会等において、団体に加盟する私立小学校(以下「加盟校」という。)の間での児童の転出入を原則として認めないことなどを決定し、各加盟校にこれを周知するなどしていた。
  2. ② 4団体は、平成25年3月26日、翌年4月に京都府向日市に小学校の新設を予定していた学校法人真言宗洛南学園を訪問し、近隣府県の私立小学校からの児童の転入を受け入れないこと等を要望し、その結果、学校法人真言宗洛南学園は、京都府内の私立小学校に在籍している児童は受験を遠慮するよう新設予定の小学校の募集要項に記載した。

2.  注意の対象となった3団体に係る事実等の概要

  1. ① 京私小連は、加盟校が統一して入学試験を実施する日を決めていた疑い。
  2. ② 大私小連は、大阪府に私立小学校の新設を予定している学校法人に対し、当該小学校を新設する場合には、募集学年を2学年とするよう要望することを決定し、以後、加盟校にこれを周知していた事実。
  3. ③ 兵私小連は、兵庫県に私立小学校の新設を予定している学校法人に対し、当該小学校を新設する場合には、児童の募集を1年生のみとし、かつ、2学級以内とするよう要望することを決定し、以後、加盟校にこれを周知していた事実

 

 公取委は、上記表1.①及び②の行為は、関連する地域における私立小学校が提供する教育サービスの取引分野における競争を実質的に制限していた疑いがあるとして、4団体に対し、今後同様の行為を行わないよう「警告」し、また、上記表2.①乃至③の事実等について、独占禁止法第8条第1号に該当する独占禁止法違反行為につながるおそれがあるとして、3団体に対し、今後違反行為を行うことがないよう「注意」を行った。

 前記のとおり、公取委は、把握した事実関係に基づき、排除措置命令、警告又は注意といった対応を使い分けることになるが、警告又は注意によって処理された事案においても、公表された事実関係を見る限り、公取委の判断によって追加調査が実施された場合には、違反行為自体の認定リスクがあり得たと思われる事例も見受けられる。

 本件においても、関西における私立小学校の連合会による行為等が警告及び注意の対象とされているが、同様の行為が他の地域の私立小学校の連合会又は私立中学校その他小学校以外の連合会においても行われていた場合に、公取委が同様に警告及び注意として処理するかは必ずしも明らかではなく、教育サービスに関わる同種の事業者団体においては、本件を契機として団体内における法令遵守体制を再確認し、万が一、独占禁止法に違反する又はその疑いのある行為が確認された場合には、直ちに当該行為を是正すると共に、事実関係に応じ、課徴金減免申請その他の追加対応の要否を慎重に検討すべきであろう。

 また、本件のように、公取委による処分が警告・注意にとどまる場合、それ自体は不利益処分ではないため、不服申立ての手続が存在しないが、他方で、公表によるレピュテーション上の損失は看過し難いという問題がある。そのため、教育に関連する団体の場合に限らず、事業者団体において競争を制限する可能性のある内部ルールや規制が検討される場合には、それがたとえグレーゾーンと見られる場合であっても、上記警告や注意の可能性も踏まえ、慎重な検討・対応がされるべきである。

 


[1] 平成21年7月10日の前においては私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)(以下「H21改正法」という。)による改正前の独占禁止法第8条第1項第1号。以下同じ。

[2] H21改正法による改正前の独占禁止法による改正前の独占禁止法第8条第1項。以下同じ。

 

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