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本件は、有罪の言渡しを受けた者による再審請求に関する申立人からの特別抗告の事案である。申立人は、受刑中に再審請求をするなどした後に出所し、裁判所に自宅住居を届け出た。再審請求を受けた原々審は、その棄却決定謄本を届出住居に宛てて特別送達を試みたが、「あて所に尋ねあたりません」との理由で返送されたため、住民票の異動の有無を確認した上で、同じ住居に宛てて付郵便送達をした。他方、申立人は、その送達当時、別件で勾留されており、2年以上経ってから再審請求が棄却されたことを知り、この本件付郵便送達は無効であるなどとして、即時抗告を経て特別抗告に及んだ。本決定は、本件事実関係の下において、本件付郵便送達は刑訴規則63条1項によるものとして有効である旨職権判示したものである。
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本件のように、送達すべき書類の名宛人が刑事施設に収容されている場合において、同人を受送達者とし、その届出住居に宛ててした付郵便送達が有効となる上では、大きく2つの問題がある。
1つ目は、付郵便送達の要件に関するものである。本決定は、本件付郵便送達を刑訴規則63条1項によるものとしているところ、同項の付郵便送達は、被告人等が同規則62条1項所定の送達のための届出をしていないことを要件としている。しかし、同条3項は、その文言上、刑事施設に収容されている者には同条1項の規定を適用しないとしているため、本件付郵便送達当時、被収容者となっていた本件申立人に前記届出義務違反があるといえるのかが問題となる。
2つ目は、被収容者に対して送達する場合の受送達者の問題である。刑訴法54条は、送達に関して、原則的に民訴法の規定を準用しており、民訴法102条3項が、刑事施設に収容されている者に対する送達は刑事施設の長にするとしている。そうすると、そもそも、被収容者である申立人本人を受送達者としてその届出住居に宛ててした本件付郵便送達が有効といえるのかが問題となる。
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被収容者の留守宅等に宛ててなされた送達に関する判例をみるに、刑事事件に関しては、最三小決昭和33・2・4集刑123号163頁がある。同決定は、刑事上告事件に関し、原審において保釈許可決定を受けながら保釈金未納のためなお勾留中であった被告人に対する上告趣意書最終提出日の告知を、肩書住居宛てに送達して家族が受領した事案について、このような場合の送達は、刑訴法54条により準用される旧民訴法168条(現行の民訴法102条3項)の規定により監獄の長(刑事施設の長)に宛ててしなければならないから、前記告知は適法にされていなかったことになるとして、期間内の上告趣意書不提出を理由とした上告棄却決定に対する異議申立てを認めた。また、民事事件の送達に関してではあるが、被収容者の留守宅に宛ててなされた送達に関するものとして、最三小判昭和51・5・25集民117号539頁がある。同決定は、収容されていた旨の届出の有無に関係なく、被収容者を受送達者としてその留守宅に宛ててなされた送達手続は無効であることを前提とする判断をしている。
学説は、被収容者の留守宅に宛ててなされた送達は無効であり、現に書類が被収容者の手に渡れば瑕疵が治癒され、その時点で送達の効力が生じるとする見解でほぼ一致している(兼子一ほか「条解民事訴訟法〔第2版〕」(弘文堂、2011)469頁〔竹下守夫=上原敏夫〕、三宅省三ほか「注解民事訴訟法Ⅱ」(青林書院、2000)336頁〔石田賢一〕、河上和雄ほか「注釈刑事訴訟法 第3版 第1巻」(立花書房、2011)639頁〔香城敏麿=井上弘通〕。なお、秋山幹男ほか「コンメンタール民事訴訟法Ⅱ〔第2版〕」(日本評論社、2006)357、380頁は、当事者の住所において一度送達が奏功した後に収容されたような場合には、民訴法104条3項1号の適用により住所に宛てたその後の送達が有効とされる余地があるとする。)。
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このような状況の中、本決定は、申立人が、自ら再審請求をしたにもかかわらず、住居を届け出た後、本件付郵便送達がなされるまで、裁判所に対して住居変更届出などをしてこなかった一方で、裁判所も、申立人の所在を把握できず、他に申立人が別件で刑事施設に収容されていることを知る端緒もなかったなどという本件の事実関係の下では、本件付郵便送達は、刑訴規則62条1項の送達場所等の届出を怠ったことを理由に同規則63条1項により申立人本人を受送達者として届出住居に宛てて行ったものと理解することができ、再審請求をしている申立人が実際には別件で刑事施設に収容されていたとしても有効と解するのが相当である旨判示した。
本決定は、事例判断の形式をとっているが、先に触れた2つの問題について、次のような判断を前提にしているものと思われる。
まず、1つ目の付郵便送達の要件の点について、本決定は、申立人が刑訴規則62条1項所定の届出義務違反があることを前提にしている。同項は、円滑な送達を行うことを目的とするものであるところ、受訴裁判所にとって、被告人が刑事施設に収容されている場合にはその所在は明らかであり、被告人にわざわざ届出義務を課すまでもないことから、同条3項は、「刑事施設に収容されている者」には、上記届出義務を課さないこととしたものと解される。前記昭和33年最決の事案は、当該上告事件に関して被告人が勾留されていることを看過したものであり、正に同項の趣旨が妥当する場面であったといえる。しかし、被収容者の所在を当然把握しているのは、当該収容の根拠となる事件が係属している受訴裁判所だけであり、その他の裁判所には「被告人」に刑訴規則62条1項の届出を求める必要性は依然として認められる。そこで、本決定は、同条3項により「刑事施設に収容されている者」が同条1項の届出義務を免れるのは、その収容の根拠となる事件が係属している受訴裁判所との関係にとどまり、別件で収容されていた申立人には届出義務違反があると理解したものと思われる。なお、このような理解をする上では、被収容者については裁判関係の書類の発受について配慮されており、裁判所への届出が困難である事情は存在しない(信書の発受の禁止除外について、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律128条ただし書、129条2項、223条ただし書、224条2項)一方で、裁判所が、何ら手がかりもないまま、所在不明者について全国に及ぶ刑事施設、留置施設における収容事実を調査することは困難であることも考慮されていると思われる。
そして、本決定は、もっぱら刑訴規則63条1項の付郵便送達の有効性の問題として検討していることに照らすと、2つ目の受送達者の点に関しては、少なくとも、本件のような事実関係の下で刑訴規則63条1項の付郵便送達の要件が備わるときには、同項は、民訴法102条3項との関係で、刑訴法54条にいう特別の定めになるという判断をしているものと理解される。本決定は、あくまで刑事訴訟に関する判断であって、民訴法102条3項とは直接の関係はなく、また、前記昭和51年最決とも矛盾するものでもないと思われる。
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実務上、当事者が所在不明となって、最終的に付郵便送達を行うことはしばしばある。そのような付郵便送達について、所在不明者が別件で刑事施設に収容されていたとしても有効となる場合があることを示した本決定は、実務上、非常に有意義なものと思われる。