経産省、「データに関する取引の推進を目的とした
契約ガイドライン」を公表(6日)
岩田合同法律事務所
弁護士 大 浦 貴 史
経産省は、平成27年10月6日、「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン」を公表した。
経産省では、「データ駆動型イノベーション創出戦略協議会」を設立するなどして、データ駆動型イノベーション(企業が壁を超えてデータを共有・利活用してイノベーションを創出することをいう。)の創出・促進に必要な制度や事業環境の整備、具体的な事例づくり等に取り組んでいる。こうした中、経産省は、分野・産業の壁を超えたあらゆるデータに関する取引を活性化させることを目的として、「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)を作成した。
本ガイドラインの対象となる「データに関する取引」とは、いわゆるビッグデータを利活用した商品開発やサービスの付加価値向上、組織の課題解決等を目的とした取引が想定されている。例えば、Webサイト運営事業者が、Webサイトにおけるユーザーの行動履歴等を取得、蓄積し、当該行動履歴等をデータ化したものを他の事業者に提供してマーケティングに活用する取引等が想定されている。データの取引と言っても、画像データや音楽データのライセンス取引のようなコンテンツビジネスは本ガイドラインの対象でない。
本ガイドラインは、検討項目をまとめたチェックリストと、検討項目の確認結果を具体的に反映した契約書ひな型の2つで構成されている。このうち、チェックリストについては、下記の図表記載のとおり10の大テーマごとに、データを提供する事業者、データを受領する事業者の双方が、それぞれの立場で必要な検討項目を確認できる内容になっている。そして、その検討結果を、契約書ひな形に落とし込んで活用することが想定されている。
利用上注意が必要であるのは、本ガイドラインは、例えば個人情報保護法といった法令の適用を受けるデータに係る検討事項まで網羅したものではないとされている点である。例えば、提供されるデータが個人情報保護法上の個人データに該当する場合は、委託先の監督等の措置が必要となるが、この点に関して本ガイドラインで言及はない。また、平成27年9月9日に公布された(施行:原則として公布後2年以内)改正個人情報保護法では、ビッグデータ等の提供を想定して「匿名加工情報」との概念が新設されているが、この点についても本ガイドラインで言及はない。紙幅の関係で詳論はできないが、例えば、匿名加工情報の第三者提供に当たっては、あらかじめ、匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目及び提供の方法について公表等する必要があり(改正個人情報保護法36条4項、37条)、また、匿名加工情報の安全管理措置等を講じ、かつ、その内容を公表する努力義務が課せられる(改正個人情報保護法36条5項、39条)のであって、契約当事者がこれらの措置等を講じていることの確認条項を設けたり、監査を可能とする条項を設けるなどの配慮も必要となる。
データに関する取引の先行事例が少なく、契約交渉に当たっての判断材料も少ないことが交渉における事業者の負担となっていたとされるが、本ガイドラインの制定を契機に、データに関する取引がより活性化されることが期待される。