消費者契約法専門調査会のポイント(第17回)
森・濱田松本法律事務所
弁護士 児 島 幸 良
弁護士 須 藤 克 己
平成27年10月30日、内閣府消費者委員会において、第20回消費者契約法専門調査会が開催された。以下、その概要を報告する。なお、本報告において、意見に亘る部分は、すべて報告者らの私見である。
1. 配布資料
以下の資料が配布された。
配布資料
資料1 主婦連合会提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料2 公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会提出資料
消費者契約法の見直し・中間取りまとめに対する意見
資料3 一般社団法人新経済連盟提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-1 公益社団法人全日本広告連盟提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-2 公益社団法人日本アドバタイザーズ協会提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-3 一般社団法人日本インタラクティブ広告協会提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-4 一般社団法人日本広告業協会提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-5 一般社団法人日本雑誌協会提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-6 一般社団法人日本雑誌広告協会提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-7 一般社団法人日本新聞協会広告委員会提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-8 一般社団法人日本民間放送連盟提出資料
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
資料4-9 広告・報道関連8団体提出資料
消費者契約法専門調査会ヒアリング資料
参考資料1 古閑由佳委員提出資料
2. 議事内容
主婦連合会、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会、一般社団法人新経済連盟、広告・報道関連8団体の各団体から、消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」(平成27年8月)に関するヒアリングを行った。
3. 各団体からの意見(ヒアリング)の主な内容
以下は、ヒアリングで実際に出された各団体の意見の要旨である。(各団体ごとに詳細な意見を配布資料として提出している。本調査会のHP上で公開される同資料を適宜参照されたい。)
(1) 主婦連合会
- ● 本団体が消費者契約法制定当時に積み残していたと考える消費者の権利擁護のための見直しを希望する。
- ● 情報提供義務は明示されるべき。
- ● 不特定多数に向けた広告等であっても、事業者が消費者に対して特定の取引を誘引する目的をもってする行為をしたと客観的に判断される場合であって、これにより消費者が誤認をしたときは意思表示の取消しができるようにすべき。
- ● 不利益事実の不告知(不実告知型)については故意要件を削除すべき。
- ● 不利益事実の不告知(不告知型)については故意又は重過失がある場合も取消しができるようにすべき。
- ● 重要事項の列挙に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を加えるべき。
- ● 不当勧誘行為(困惑類型)に「執拗な勧誘」「威迫」を追加すべき。
- ● 不当勧誘行為(合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結する類型について)に、取消しの規定を設けるべき。
- ● 消費者契約法に基づく取消権の行使期間延長することを求める。
(2) 公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会
- ● 不動産取引については、宅建業法等で不当な対応が排除されており、業界団体においても契約ひな形の作成や自主ルールにより消費者保護のための対応をとっている。
- ● 消費者概念のみならず、事業者概念についても見直しの議論があってしかるべきではないか。家主の85%程度は零細であり情報力交渉力も強くなく、さらに不動産取引関連法令により立場が弱いことが多い。
- ● 不動産取引においては情報提供義務が法令上定められており、消費者契約法で重ねて事業者の情報提供義務を定めるべきではない。
- ● の努力義務は削除すべきではない。
- ● 不特定の者に向けてなした広告等を「勧誘」規制の対象に含めるべきではない。
- ● 不利益事実の不告知が問題になりうるのはサブリース事業以外で家主が自分で借主を見つけて契約をするケースであるが、故意要件や先行行為要件を削除することは小規模零細が多い家主に過大な負担となる。
- ● 損害賠償の予定・違約金条項は消費者契約法10条で対応すればよい。
- ● 不当条項の追加については、すでに不動産取引於いては十分対応済み。
- ● 条項使用者不利の原則は、不動産取引においては個別の交渉の結果契約を締結しているので、「事業者が自ら契約条項を準備して使用している」という要件には該当しないことを確認してほしい。
(3) 一般社団法人新経済連盟
- ● 消費者契約法の改正は、膨大な数の取引に影響を及ぼすものであるから、既存取引に支障が出ないように、配慮すべき。そのために、適切な問題把握が必要であるが、立法事実が十分検討されていないのではないか。相談事例や裁判例があることそのものが立法事実ではない。消費者契約法一般に規制を広げるべき立法事実が示されていない。
- ● 専門調査会の委員構成のバランスは実務を重視したものになっておらず、見直すべきである。
-
● 個別の論点につき概ね反対と意見であった。(以下はその一部である。)
- ・ 適切な要件設定は困難であり、消費者概念は現行法を維持すべき。
- ・ 現行法で対応可能であり、情報提供義務の効果として取消しや損害賠償を規定すべきではない。
- ・ 契約条項平易明確化の義務化、消費者の努力義務の削除に反対。
- ・「勧誘」要件の拡張について中間とりまとめで示された案には反対。取消しという効果は非常に重い。詐欺や強迫に準ずるような広告に対象が絞られるよう適切に要件設定を行うべき。
- ・ 断定的判断の提供の見直しには反対。
- ・ 不利益事実の不告知を不実告知型と不告知型に分けたうえで、不実告知型について故意要件を削除し、不告知型について先行行為要件を削除する案に反対。
- ・ 消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項を追加して列挙する案、その他の事項を追加して列挙する案、列挙事由を例示として位置付ける案、いずれにも反対。
- ・ 不当勧誘行為の困惑類型に執拗な電話勧誘や威迫を追加することに反対。
- ・ 不招請勧誘に関する規定を新設することに反対。
- ・ 不当勧誘行為に合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型を追加することに反対。
- ・ 委託関係にない第三者による不当勧誘の場合についても取消権を認めるという案に反対。
- ・ 消費者契約法における取消権の行使期間を伸長する案に反対。
- ・ 民法の法定追認の規定の適用を制限する特則の新設に反対。 等
(4) 広告・報道関連8団体
- ● 見直しの背景となる社会経済状況の評価への疑問、検討プロセスへの疑問、立法事実の存在に関する疑問、事業者への多大な悪影響から、消費者契約法の見直し自体に反対。
- ● 見直しの背景となる社会経済状況の評価について、一律に事業者対消費者という対立モデルとは言い切れない。法改正という手段が高齢者を含む消費者保護として適切な手段と言えるのか。
- ● 審議において、事業者の意見を聞く機会が少ない。少なくとも中間取りまとめ前までにヒアリングをしてほしかった。
- ● 消費者契約法は民法の特別法なので、民法改正の国会審議の後にその内容を踏まえて議論すべきではないか。
- ● 立法事実の存在について、検討の素材である紹介事例はそれぞれ本当に適切か、一般的な問題なのか、現行法で適切処理できるのではないかという疑問がある。
- ● 事業者の訴訟リスクが不当に拡大する。
- ● 広告と勧誘は全くの別物である。広告等を不当勧誘規制の対象としうるような勧誘要件の見直しには反対。
- ● 断定的判断の対象が、「財産上の利益に影響しない事項」にまで拡大するなら反対。
- ● 不利益事実の不告知について、先行行為要件を不要とする不告知型に反対。また、不実告知型の故意要件の削除にも反対。
- ● 情報提供義務を法的義務化することについて反対。
- ● 重要事実の拡大について反対。
- ● 事業者の過失による場合にも第三者による不当勧誘の場合に取消権を与えることに明確に反対。
4. その他
次回開催予定:平成27年11月に開催予定。日程は別途通知。
以上