法のかたち-所有と不法行為
第五話 古代ローマにおける物の帰属関係
法学博士 (東北大学)
平 井 進
1 二種類のアクティオ
一般に、パンデクテン法体系はローマ法に由来するとされているので、ここで、古代ローマにおける物に関する法について、必要な限度で見ていきたい。
知られているように、ローマ法においては、訴訟の権能はactio(一般に「訴権」と訳される)という行為に表されているが、大別して二つのアクティオがあり、actio in personamとactio in rem(もとはpetitioといわれていた)があったとされる。persona/personamは人を意味するので、actio in personamは「対人的なアクティオ」と訳してよいが、res/remには「ものごと・事象・状況」という一般的な意味があり、後で見るように、これを「対物的なアクティオ」と訳すのは必ずしも適切でないように思われる。
王制時代からの古い神聖法律訴訟において、ある物が誰に帰属するかを争う事件では、法廷に運び込まれた物(土地の場合はそれを表す土塊)に対して、当事者双方が「この物は私のものである(meum esse)」と宣言して争い、その主張が支持された側にその物は帰属した。[1]ただし、その裁判は物の帰属関係を確認することであり、かつそれだけであったので、敗れた側にその物を引渡す義務はなく、勝った側はそれを正当に実力で取るか、その引渡しを求めるために別に保証人を立てることを要した。
当初の訴訟は上記の口頭によるものであったが、共和制時代になると方式書という文書による形式となる。そのdemonstratio(請求原因)の部分には物の取得・喪失や契約のような訴訟の原因が記載され、intentio(請求趣旨)の部分には「○○(人の名)が私に△△(対象の名)を与え、またはなすべきであることが明らかであれば」(personam)、「△△(対象の名)が市民法において私のものであることが明らかであれば」(rem)というように記載され[2]、condemnatio(判決として求めること)の部分には、「上記が明らかであれば、○○(人の名)を有責と判決せよ」というように記載される。