◇SH0494◇全株懇、「グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン」を公表 浜崎祐紀(2015/12/03)

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全株懇、「グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン」を公表

岩田合同法律事務所

 弁護士 浜 崎 祐 紀

 

 全国株懇連合会[1]は、平成27年11月18日、平成27年11月13日開催の全株懇理事会において制定した「グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)を公表した。これは、直接的には、コーポレートガバナンス・コード補充原則1-2⑤において、信託銀行等の名義で株式を保有する機関投資家等が、自ら総会における議決権行使を求める希望を有する場合への対応の検討が求められていることに関連して、公表されたものである。

 本ガイドラインで想定している「グローバル機関投資家等」とは、概要、下記のイメージ図のとおりであり、国内外の機関投資家等を含む概念である。本ガイドラインは、こうしたグローバルな機関投資家等による株主総会への出席の要請が徐々に高まりつつも、その実務的な取扱いが確立しているとは言い難い状況にあるなかで、現行会社法下において、名義株主[2]ではないグローバルな機関投資家等による株主総会への出席に関し、一定の方法を示したものである。

 

本ガイドライン5頁の図表3より一部抜粋
 

 現行の会社法上、グローバル機関投資家等は、名義株主ではないため、当然には、株主総会に出席して、議決権を行使することができない。会社法第310条第1項は、代理人による議決権行使を認めているが、多くの上場会社は、定款において、代理人による議決権行使を他の株主に限定しているケースが多い。判例上、このような定款の定めも有効とされている[3]が、他方で、その出席を認めたとしても株主総会がかく乱されるおそれがなく、これを認めないと株主の議決権行使の機会を事実上奪うような不当な結果をもたらす特段の事情がある場合には、非株主を代理人とした議決権の行使を認めている[4]。そして、例えば、県、市、株式会社が職員又は従業員を代理人として出席させるような場合などに特段の事情が認められている。

 このような会社法上の規律、上場会社の運用実態、及び判例法理を前提に、本ガイドラインは、グローバル機関投資家等の株主総会への出席方法に関し、以下の4つの方法を提言した。

 

  方法 利点 留意点

A

Xが1単元以上の株主の所有者となり、Nの代理人として出席する方法

Xは、代理人資格を名義株主に限定する定款規定の下でも、Nの代理人となれる。

Xは、基準日時点で、1単元以上の名義株主である必要がある。

B

発行会社の合理的裁量の下、株主総会を傍聴する方法

議決権の二重行使の処理の問題が生じない。

当日の議決権行使や、質問等の株主権の行使ができない。また、傍聴が認められるか否かは、発行会社の合理的裁量に服する。

C

上記判例でいうところの「特段の事情」を発行会社に証明した上で、Nの代理人として出席する方法

基準日時点で1単元以上の名義株主となる必要がない。また、Dのような定款変更は不要である。

「特段の事情」の外延・解釈が必ずしも明確ではなく、法的安定性に欠く。

D

発行会社において、グローバル機関投資家等による信託銀行等の代理人としての議決権行使を認める定款変更を行う方法

定款の規定により、株主総会に出席できる範囲が明確になるため、法的安定性が高い。

定款変更決議が必要となる。また、対象となる機関投資家等の範囲等の具体的な規定ぶりについては各社における検討が必要となる。

  X:グローバル機関投資家等
  N:名義株主(信託銀行等)

 

 本ガイドラインにおいて提言されているグローバル機関投資家等による株主総会への出席対応は、コーポレートガバナンス・コード等において促進が図られている企業と投資家との対話の観点とも軌を一にするものと評価できる。事業及び株主のグローバル化が進むなか、各社においては、本ガイドラインの提言を踏まえた「対話の深化」が正に求められるといえよう。

以 上

 


[1]  全国株懇連合会は、全国12ヶ所の各地株懇・株研の全国組織であり、各地株懇・株研との株式に関する法律と実務の調査・研究、情報交換・交流、及び、法務省、法律学者、証券取引所、日本経済団体連合会、弁護士等との交流を通じて、会社法改正等の立法面における意見交換やパブリックコメントへの意見提出、各種株式実務の標準実務や書式の提言等を行っている。

[2]  本ガイドラインにおいて、「名義株主」とは、株主総会の基準日において株主名簿に記載されている株主をいい、本ガイドラインが対象としている名義株主ではない者は、信託口等を通じて株式を保有しているような者を想定している。

[3] 最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁

[4] 最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁

 

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