不動産テック(Real Estate Tech)の実務と法律上の留意点・問題点(2)
~不動産クラウドファンディングを中心に~
TMI総合法律事務所
弁護士 成 本 治 男
2. 日本における不動産テックサービスの類型
(1) 不動産クラウドファンディング
- ② 不動産特定共同事業
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不動産特定共同事業法に基づく匿名組合出資を募集する形での出資を勧誘する形態である[1][2]【図表3】。現時点では、契約成立前書面などの書面を現実に交付する必要があることから、いわゆるクラウドファンディングの形態で不動産特定共同事業を行っている事業者は存在しないが、後述のとおり法改正によりクラウドファンディングに対応するよう整備されることから、今後は不動産特定共同事業の枠組みでクラウドファンディングを行うことも予想される。
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【図表3】
- 1)許認可
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事業者が、投資家から匿名組合出資の形で出資を受け、その出資金をもって不動産の売買や賃貸などの不動産取引を行い、当該不動産取引から生じた利益を投資家に分配するという不動産特定共同事業(いわゆる第1号事業)を営む場合には、不動産特定共同事業法上の許可を得る必要がある。かかる第1号事業の許可のためには、資本金要件(1億円)や宅建業免許、人的構成要件などが必要とされる。不動産特定共同事業(第1号事業)に係る匿名組合出資持分は、金融商品取引法上のみなし有価証券から除外されているため[3]、事業者もプラットフォーム提供者も第二種金融商品取引業は不要となる。
なお、平成29年5月26日に成立、同年6月2日に公布され、同年12月1日に施行予定の不動産特定共同事業法の改正法においては、出資総額が一定規模以下の「小規模不動産特定共同事業」の制度を創設し、かかる小規模不動産特定共同事業を営む場合については資本金要件を緩和することとされている[4]。 - 2)電磁的方法による書面交付の可否
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不動産特定共同事業(第1号事業)に係る不動産特定共同事業契約(例えば匿名組合出資契約)を締結しようとする場合には、契約成立前及び契約成立時に一定の法定事項を記載した書面を交付する義務が定められている[5]。しかし、かかる書面の交付をインターネット上での電磁的方法のみにより行うことは、現行法上は認められていない。
この点、上記1)で前述した不動産特定共同事業法の改正法において、契約成立前書面等についてインターネット上での手続に関する規定が整備され、不動産特定共同事業法に基づくファンドをいわゆるクラウドファンディングの方法で募集することが可能となる予定である。 - 3)募集・勧誘における人数要件
- 上記1)で前述したとおり、不動産特定共同事業(第1号事業)に係る匿名組合出資持分は金融商品取引法上のみなし有価証券から除外されているため、当該匿名組合出資持分の勧誘・募集については、金融商品取引法上の開示規制は適用されない[6]。したがって、当該匿名組合出資持分の勧誘・募集において、投資家が500名以上となるような勧誘・募集であったとしても、金融商品取引法上の「募集」(いわゆる公募)には該当せず、有価証券届出書等の作成義務は生じない。また、不動産特定共同事業法においては、勧誘・募集の人数等に係る制限やその他の開示規制は規定されていない。この点は多数の投資家から少額の資金を募るというクラウドファンディングに適しているといえよう。
[1] いわゆるSPCを利用する特例事業(不動産特定共同事業法第2条6項)も理論的にはあり得るが、実際にはかかる特例事業を利用した個人投資家向けの小口化商品は現時点では見当たらない。また、任意組合型の小口化商品も複数存在するが、本稿では一般的な匿名組合型の小口化商品を前提とする。なお、匿名組合型の小口化商品の場合において、現実には事業者自らのWebサイトで募集・勧誘を行っているケース(「事業者」=「プラットフォーム提供者」)がほとんどである。
[2] 『サーフシリーズ』(http://www.sumitomo-rd.co.jp/fund/)、『マリオンボンド』(https://www.mullion.co.jp/)、『TATERU FUNDING』(https://www.tateru-funding.jp/)など。
[3] 金融商品取引法第2条2項5号ハ
[4] 小規模事業における投資家の出資の価額の上限額は100万円、(1ファンドあたりではなく)1事業者あたりの出資総額の合計額は1億円とされている。また、緩和後の資本金要件は1000万円とされている。
[5] 不動産特定共同事業法第24条、第25条
[6] なお、SPCを利用する特例事業(不動産特定共同事業法第2条6項)に係る匿名組合出資持分は金融商品取引法上のみなし有価証券に該当する点、留意が必要である(金融商品取引法第2条2項5号ハ)。