◇SH0701◇中国:会社法司法解釈(四)意見募集稿(その1) 川合正倫(2016/06/17)

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中国:会社法司法解釈(四)意見募集稿(その1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 最高人民法院は、2016年4月12日付けで「中華人民共和国会社法」の適用に関する若干の問題についての規定(四)(意見募集稿)(以下「本司法解釈案」という。)を公布した。本司法解釈案においては、1.会社意思決定機関の決議の効力、2.株主の情報収集権、3.株主による利益配当請求、4.持分譲渡の際の優先買取権、5.株主直接訴訟及び株主代表訴訟といった外国投資企業にとっても関心の高い5つの事項について会社法の規定の明確化が図られている。本司法解釈案は未施行であるものの、実務においては一定の指針となりうるため、本稿及び次稿において、各項目について重要性が高いポイントに絞って本司法解釈案の内容を紹介する。

1.会社意思決定機関の決議の効力

 会社法においては、株主総会又は董事会等の意思決定機関の決議の効力に関しては以下の原則が定められているのみであった。

  1. ▶ 決議無効事由:決議内容が法律又は行政法規に違反する場合
  2. ▶ 決議取消事由:招集手続又は議決方式が法律、行政法規又は定款に違反する場合
           決議内容が会社定款に違反する場合

 本司法解釈案においては、上記事由の明確化に加え、訴訟当事者、決議の事後合意、仮処分(注:中文「行為保全」)といった事項について規定されている。

〈決議無効事由〉

 決議無効事由について以下のとおり具体化が図られている。

  1. (1) 株主が株主権を濫用して決議を可決することにより、会社その他の株主の利益を損なう場
  2. (2) 決議に基づき、過度の利益配当、重大な不正関連取引等を行うことによって会社の債権者の利益を損なう場合
  3. (3) 決議の内容が法律、行政法規の強制規定に違反するその他の状況が存在する場合

〈訴訟当事者〉

 決議の有効性に関する確認訴訟及び取消訴訟の当事者についても規定され、例えば決議取消訴訟の原告は、提訴時のみならず案件受理後も株主としての地位を有することが要求されている。このため、取消訴訟が提起された場合、被告会社は持分譲渡等の手段を通じて株主としての地位を喪失させることが有効な対抗手段となる。

〈決議の事後同意〉

 決議取消事由が存在する場合であっても、「決議後に株主がその内容に同意することを明確に表明したとき」や「決議後に、株主が決議の内容を受け入れることを自己の行為をもって明確に表明したとき」は、取消訴訟を棄却するとされている。このため、決議取消事由が存在すると考えられる場合、株主としては決議後の言動に注意する必要がある。

〈仮処分〉

 決議に瑕疵があり、かつ、決議の実施後に原状回復ができない場合又は関係者に補填することが困難な損害が生じる場合は、株主その他の利害関係者は、担保を提供した上で決議の実施を禁止するよう請求することができる。

2.株主の情報収集権

 会社法において、有限責任会社の株主は、定款、株主総会、董事会及び監事会の決議、財務会計報告を閲覧及び複写する権利を有するとされているが、司法実務において統一的な運用がなされていないという問題が指摘されていた。本司法解釈案においては、株主による情報開示に関して、株主保護及び会社保護の双方向から規定が設けられている。

〈株主保護の規定〉

 株主の情報収集権は株主としての固有権であり、会社定款又は株主間契約においてこれらを制限することは認められず、会社は株主の出資に瑕疵があることを理由にこれを拒否することはできない。また、株主は、情報収集を代理人に委託することができ、不当な目的がない限り会計帳簿や関連する証憑の原本を要求することができることが明確化された。さらに、会社が法律に違反して、文書及び資料を作成及び保管しない場合には、株主は董事、高級管理職に対して民事賠償責任を追及することができる。

〈会社保護の規定〉

 会社法においては、会社は「合理的な根拠に基づき、株主による会計帳簿の閲覧が不当な目的によるものであり、これにより会社の適法な利益が損なわれるおそれがあると認められる場合には、閲覧を拒否することができ」るとされている。この点に関し、本司法解釈案は、「不当な目的」について以下のとおり具体化している。

  1. (1) 株主が会社の主要事業と実質上の競合関係にある業務を自ら又は他人のために経営する場合
  2. (2) 株主が知り得た事実を第三者に報告することによって利益を獲得する場合
  3. (3) 過去二年間に、利益を獲得する目的で、株主が会社の文書、資料を閲覧することによって知り得た事実を第三者に報告したことがある場合
  4. (4) 株主が会社の業務展開を妨害し、会社の利益又は株主の共同利益を損なうことを目的とすることを立証できるその他の事実がある場合

(次回につづく)

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