法のかたち-所有と不法行為
第五話 古代ローマにおける物の帰属関係
法学博士 (東北大学)
平 井 進
3 物に関する法関係において人的要素が捨象される
対人アクティオが義務者にその義務の履行を求め、確認アクティオが第三者に義務があるかどうかを判断するという機能をもつ限り、それぞれの役割は分担されていたと思われる。しかし、ある時代から、確認アクティオが、その確認されたことがらについてそれを実現する対人的な義務を課すようにも作用するようになると、それは実際には、上記の対象に関する法的評価を行う対人アクティオと等しく機能するものとなる。[1]
これらは、ヨーロッパ中世において、法関係としてius in personam(人と人の関係の法)とius in re(人と物の関係の法)という概念となり、さらにiusが次第に人の「権利」的な概念をとることによって、「人と人の関係の権利」と「人と物の関係の権利」に近い概念となっていく。
ここにおいて、前述の物が人に帰属する法関係を実現するにあたり、本来、「人と人の関係」において、歴史的に、その現占有者における責任のあり方-その占有の経緯や主観性を問わない-について一つの法的評価が選択されていたことが忘れられ、その現占有者の人的要素が捨象された形式によって、あたかも「人と物の関係」であるかの如く社会関係性をもたない観念となったと思われる。
以上が、ローマ法におけるactio in remという形式について、ヨーロッパ中世以降に、ius in reとして物権的に理解されるに至った沿革についての仮説的な理解である。このように形成された所有権概念に対して、前述のように、オッカムのウィリアム、プーフェンドルフ、カントらが批判していたのである。
[1] なお、ローマの所有に関する法の後代への影響については、占有の暴力的な妨害に対する帝政期の行政(警察)的な保護制度(法務官の特示命令)の変容と、ビザンティン法学におけるギリシャ法的な意思の要素の導入(主観的なius概念の生成)とがあるが(船田享二『ローマ法 第五巻』(岩波書店, 1972年)351-377頁)、ここでは触れない。