保険業界に関するEU適用免除規則の改正
亀 岡 悦 子
一見EU競争法に違反する行為でも、一定の条件を満たすことで違反の判断を免れることがあるが、その条件を示したEUの法律が適用免除規則である。但し、この免除は条件が満たされていないと判断された時点で取り消されることがある。技術移転に関する適用免除規則のように、業界を問わず適用される一般的な適用免除規則もあるが、業界別の適用免除規則も定められている。このような特殊な扱いが認められる業界は、海運業界、自動車業界、そして保険業界である。EU競争法執行機関である欧州委員会は、これら3つの業界について、それぞれの業務慣行の特殊性を考慮した適用免除規則を定めている。
現行の保険業界に関する適用免除規則267/2010は、2003年の旧規則358/2003を改正したもので、2010年4月1日から施行されており、2017年3月31日に失効する予定である。適用免除規則は、基本的に競争法上あまり問題がなく、場合によってはむしろ市場の状況を考えると好ましいあるいは必要と思われるような保険業者間の水平的協力関係を取り上げ、有効性を認める。具体的には、現行規則上条件付きで容認される行為として、競業企業間の統計上の情報交換を可能にする共同研究や、共同情報編集、そして一定リスクの共同カバレッジ(共同保険プール)がある。共同保険プールについては、市場占有率などが条件となっている。標準ポリシーの条件やモデル、セキュリティ・デバイスに関する免除は、2010年の規則改正の際に既に撤廃されている。
欧州委員会は、2016年3月までに、保険業界に関する適用免除規則改正についての報告書を欧州議会と理事会に提出しなければならない。そのため、規則の改正が必要か、改正するとするとどのような改正が必要かについて現在検討中であり、保険業者などの利害関係人を対象にパブリック・コンサルテーションを行っている。このコンサルテーションでは、欧州委員会は質問書を用意しており、今年11月4日までに意見を表明することを希望する企業、機関は欧州委員会に質問書回答を提出することができる。質問書では、過去10年の市場構造の変化や市場への新規参入の可能性などが問われている。詳細については、欧州委員会の以下のサイトを参照されたい。
http://ec.europa.eu/competition/consultations/2014_iber_review/index_en.html
欧州委員会は、業界の特殊性を考慮した特別扱いを徐々に撤廃し、一般的な適用免除規則を含むすべての業界に適用するEU競争法で、どの業界のビジネス活動も規制しようとする方向に向かっている。しかし、海運業に関するライナー・コンソーシアについての適用免除規則の効力が2020年まで延長されたことからみても分かるように、完全な撤廃はまだ先の話になりそうである。そういった過渡期の状態の中、新規則が採択される前に業界と自社の業務慣行を見直す必要が出てくると思われるが、保険業界の場合には規制当局との関係もあり、複雑な対応が求められる恐れがある。
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