◇SH0505◇インドネシア:投資調整庁長官規則の改正 福井信雄(2015/12/15)

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インドネシア:投資調整庁長官規則の改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 

 2015年10月、外国投資に関する手続規則である投資調整庁長官規則2015年第5号(同第12号による変更を含む。)が見直され、以下の4つの規則に再編成され10月26日に一斉に施行された。

 (ア) 投資原則許可に関する投資調整庁長官規則(2015年第14号)

 (イ) 投資事業許可及びその他の許認可に関する投資調整庁長官規則(2015年第15号)

 (ウ) 投資優遇措置に関する投資調整庁長官規則(2015年第16号)

 (エ) 投資実施の管理に関する投資調整庁長官規則(2015年第17号)

 加えて、外国投資に伴う税制優遇制度に関しても改正が行われ、以下の2つの規則が同時に施行された。

 (オ) タックス・アローワンスに関する投資調整庁長官規則(2015年第18号)

 (カ) タックス・ホリデーに関する投資調整庁長官規則(2015年第19号)

 今回の改正内容は細かい点も含めれば多岐にわたるが、実務上重要と思われる改正点を以下3点ほど紹介したい。

 

1.3時間での投資原則許可の発行手続

 投資調整庁は、近年許認可発行手続の簡素化・迅速化に注力しており、その目玉となる新制度として打ち出したのが「申請から3時間で投資原則許可を発行する」というものである。この制度を利用できる条件は、①投資金額が最低1000億ルピア(約9億円)又は最低1000人の現地従業員の雇用を予定する投資計画であること、及び②外国投資家自らが投資調整庁の窓口で投資申請を行うこと、の2つである。主に製造業を想定した労働集約型の大型投資に対して特別の便宜を付与するものである。「3時間」という時間が強調されているが、この制度の真のメリットは、従来①投資原則許可の取得→②会社の法人格の取得→③建設許可の取得という3段階のステップを経て初めて工場の建設を開始することができていたのが、①投資原則許可を取得した時点で工場の建設に着手することを認めるという点にある。これによって企業側は操業開始までのスケジュールを数ヶ月単位で短縮することができ、より迅速な事業の立ち上げが可能となる。

 

2.投資実現状況のモニタリング強化

 外国資本企業がインドネシアで事業を行う場合、投資原則承認を取得して以降、実際に操業を開始するまで(事業許可を取得するまで)の期間中は四半期に一度、操業開始後は半期に一度事業進捗報告書を提出することが義務づけられているものの、この報告義務を遵守していない外国資本企業も少なくなかった。近年投資調整庁は当初の投資計画がどの程度実現できているかという点を重視し始めており、その観点からこの事業進捗報告書の提出についてもより強く遵守を促す姿勢を取りつつある。今回の規則の改正においても、投資調整庁から事業進捗報告書未提出を理由に警告書の発行を受けた場合で、1か月以内に何の対応も取らずに放置したときには、投資調整庁は当該外国資本企業の許認可を取り消す処分を課すことが明文で規定された。なお、事業進捗報告書の提出も現在はオンラインで行うことができるようになっており、手続き自体は簡易である。外国資本企業が提出した事業進捗報告書は、投資調整庁により、①会社に関する情報、②会社が保有している許認可、③投資実現状況、④機械・原材料の保有状況、④従業員の雇用状況、⑤生産及びマーケティングの状況、⑥国外に販売している場合の輸出額、⑦会社が直面している問題点等が確認され、必要に応じて追加の説明や訂正を求められる場合がある。

 

3.ダイベストメント義務履行後の買戻し手続の明文化

 100%外国資本で設立されたインドネシアの外国資本企業が、15年以内にその資本の一部をインドネシア資本に譲渡しなければならないというダイベストメント義務は1994年の政令がその法的根拠となり、投資調整庁長官規則2013年第5号(及び改正同13号)においてもその有効性が確認されていた。今回の改正においてもその有効性については引き続き維持されているものの、①インドネシア資本に譲渡する株式は、額面価格で1000万ルピア(約9万円)相当で足りること、②譲渡を受けたインドネシア資本は、外資規制等に抵触しない限り当該株式をさらに第三者に譲渡することができること、の2点が新たに明文で規定された。これまで②の買戻しの可否については議論のあったところであるが、今回の改正で明文で認められたことにより、一段とダイベストメント義務の履行のハードルが下がったといえる。

以 上

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