東京地裁、英単語の語呂合わせの内容が類似する被告書籍の複製及び
譲渡の差止め他を求めた原告の請求を棄却
岩田合同法律事務所
弁護士 別 府 文 弥
1.はじめに
著作権の複製権・翻案権(著作権法21条・27条)の侵害判断については、2020年に開催される東京オリンピックのロゴ問題等で近時耳目を集めているが、個別の事例における侵害・非侵害の判断が微妙な事例も多い。
本判決(東京地判平成27年11月30日)は、原告書籍記載の語呂合わせ(以下「原告語呂合わせ」という。)に依拠して作成された英単語の語呂合わせ(以下「被告語呂合わせ」という。)が記載された被告書籍の複製及び譲渡の差止め等を、依拠性を認めた上で棄却した事例であるが、著作権の複製権・翻案権に係る侵害・非侵害の判断の一事例として参考になると考えられるため、以下紹介する。
2.本判決の概要
まず、本判決は、判断の枠組みとして、著作権の複製の意義について最判昭和53年9月7日民集32巻6号1145頁〔ワンレイニーナイト・イントーキョー事件〕を引用し、著作権の翻案の意義について最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁〔江差追分事件〕を引用した上で、「複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との共通性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要」であり、「創作的」に表現されたというためには、「厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、作者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、作者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない」旨判示する。
当該判断枠組自体は、a)両著作物の同一性のある部分の認定を行い、b)同一性ある部分が創作的表現か否かの判断を行っている点において、上記江差追分事件やその他の裁判例と同一の判断枠組を採用しているものと考えられる。
そして、本判決は、原告語呂合わせと被告語呂合わせを比較し、上記a)及びb)の判断枠組みを用いて、同一性がある部分が創作的表現か否かの判断を行っているが、比較箇所が100か所に及ぶため、以下数か所を引用し、裁判所の判断を引用する(下記表参照。なお、本判決では、原告語呂合わせの括弧内については、記載箇所の日本語訳を読み込まず、また、フォント、コンマ、色、強調点の有無、読み仮名の有無を捨象した上で、同一性及び創作的表現性を認定している。)。
番号 |
単語 |
原告書籍 |
被告書籍 |
1 |
Beard |
ビヤーッ、どっとはえる( )。 |
びぃあ~、どっとあごひげ伸びる |
6 |
Comprehend |
このプリン変だと( )。 |
このプリン変だと理解する |
17 |
Industry |
インダスほとりに( )が。 |
インダスほとりに産業興り |
58 |
Niece/Nephew |
ニースへ( )は、甥は寝冬。 |
ニースの姪に電話し「甥は寝冬」と伝え |
上記の各箇所に関する、裁判所の判断は以下の通りである。
裁判所の判断 |
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1 |
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6 |
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17 |
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58 |
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本判決は、上記の他96箇所の比較箇所についても同様の判断を行い、被告語呂合わせが原告語呂合わせを複製又は翻案したものに該当せず、被告書籍の発行・販売が原告の著作権(複製権・翻案権)の侵害に当たらないと判示している。
3.小括
本判決は、あくまで事例判断ではあるものの、原告語呂合わせと被告語呂合わせを詳細に対比させたうえ、全ての表現の共通部分に創作性が認められないとして、原告の請求を棄却した一事例として、参考となる。
もっとも、裁判所における著作権の複製権・翻案権の侵害に係る判断基準とは別途、近年「マネ」「パクリ」といった行為に対するレピュテーション・リスクが大きくなっていることを踏まえると、他者の著作物を依拠・引用するに当たっては、慎重な検討が必要であると考えられる。
以上