東芝、定時株主総会の開催等に関するお知らせ
岩田合同法律事務所
弁護士 泉 篤 志
平成27年5月29日、株式会社東芝(以下「東芝」)は、「定時株主総会の開催等に関するお知らせ」と題するプレスリリースを公表した。かかるプレスリリースによると、東芝は、本年6月25日に定時株主総会を開催し、報告事項として、「会計処理の適切性に関する調査等の件」を報告し、決議事項のうち会社提案として、「取締役16名選任の件」を上程するとのことである。
既に報道等で知られているとおり、東芝は、本年4月3日に社外の専門家を含む特別調査委員会を設置し、①一部インフラ関連の工事進行基準案件において、工事原価総額が過少に見積もられ、工事損失が適時に計上されていない等の不適切な会計処理が存在することや、②同案件以外でも、損失引当計上の時期及び金額の妥当性、経費計上時期の妥当性、在庫の評価の妥当性等に追加調査が必要であることが判明し、その結果、同年5月8日には日本弁護士連合会のガイドラインに準拠した第三者委員会を設置する旨を公表した。この第三者委員会は、①工事進行基準に係る会計処理、②映像事業における経費計上に係る会計処理、③半導体事業における在庫の評価に係る会計処理、④パソコン事業における部品取引等に係る会計処理を調査範囲としており、現在も調査を実施中である。
このような状況で定時株主総会を開催するにあたって問題となるのは、会社法上報告等が求められている(438条3項、439条等)、平成27年3月期の事業報告、連結計算書類及び計算書類(以下「計算書類等」)の内容並びに連結計算書類の監査結果の報告等を、予定どおり同年6月総会の場で実施できるか否かである。
この点、東芝は、上記第三者委員会の調査結果が出るまでは、平成27年3月期の計算書類等を確定することができず、同年6月開催予定の定時株主総会ではこれらの内容等を報告することができないとしている[1]。
場合によっては、定時株主総会を計算書類等が確定した後の7月以降に開催することも考えうるが、東芝の定款では「定時株主総会は、毎年6月に開催する。」と規定されており[2]、このような場合、天災等のような極めて特殊な事情によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合でなければ、定款に違反するおそれもあるところである[3]。また、登記実務上、定時株主総会が定款所定の時期に開催されなかった場合における取締役の任期満了による退任の日は、上記のような状況が生じた場合でなければ、定款所定の定時株主総会が開催されるべき期間の満了の日となると解されており[4]、定時株主総会を6月までに開催しないと取締役全員が任期満了で退任し、新たな取締役が選任されるまで、取締役としての権利義務を有するといった極めて例外的な事態となる(会社法346条1項)。
おそらくこのような事情に配慮してのことと思われるが、東芝は、予定どおり本年6月に定時株主総会を開催することとし、計算書類等の内容並びに連結計算書類の監査結果の報告等に代えて、「会計処理の適切性に関する調査等の件」を報告事項としている。この点、かかる報告事項は会社法上明文で報告が義務付けられているものではないが、重要な後発事象は株主総会における事業報告の際に取締役から口頭で報告されることが妥当であると解されていることとの平仄からも、望ましい対応であると考えられよう。
また、東芝は、定款上本年6月の定時株主総会終結の時に取締役の任期が満了するため、取締役選任議案を上程しているが、上記のように第三者委員会の調査が継続中の状態では、会社の経営を委任するのに適切な取締役を選任することは困難であることから、あくまで当該調査に全面的に協力し、原因究明を精密かつ迅速に行うために、後記臨時株主総会終結の時までを任期とする現任取締役の一時的再任と位置付けている。なお、東芝は、計算書類等の報告や新規取締役の選任のため、上記第三者委員会の調査終了後に臨時株主総会を開催する予定である。
近年、上場企業においても、売上過大計上、費用過少計上、循環取引等の不正会計処理の事案が発覚するケースも少なくないところ、これらの企業不祥事は、当該企業の業績予想や決算に直接的に影響するものであり、発覚時期によっては、今回の東芝のケースのように決算発表の時期や定時株主総会の議案の内容を(場合によっては定時株主総会の開催時期も)変更せざるをえなくなる可能性がある。今回の東芝の対応は、今後不正会計処理が発覚した企業においても参考になるところが少なくないため、本トピックを取り上げた次第である。
東芝第176期定時株主総会概要 |
<第176期定時株主総会の開催について> (1) 開催日時 2015年6月25日(木曜日) 午前10時 (2) 開催場所 東京都墨田区横綱一丁目3番28号 国技館 (3) 目的事項 ① 報告事項 会計処理の適切性に関する調査等の件
② 決議事項
<株主提案> |
[1] 東芝は、平成27年3月期有価証券報告書及び平成28年3月期第1四半期報告書の提出期限についても、それぞれ本年8月31日、9月14日とする旨の延長申請を行い、承認を受けている。
[2] EDINETで閲覧可能な東芝の平成26年3月期有価証券報告書添付の定款第12条。
[3] 河合芳光「定時株主総会の開催時期に関する法務省のお知らせについて」旬刊商事法務1928号4頁。
[4] 山川都資ほか「東日本大震災に伴う商業登記の実務に関するQ&A」旬刊商事法務1933号10頁。
(いずみ・あつし)
岩田合同法律事務所パートナー。2004年東京大学法学部卒業。2005年弁護士登録。2013年University of Southern California卒業 (LL.M.)。2014年ニューヨーク州弁護士登録。「特集 改正会社法と実務対応Q&A」(共著 金融法務事情2014年9月25日号)、「IPOと戦略的法務-会計士の視点もふまえて」(共著 商事法務 2015年)等著作多数。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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