ISS、日本向け議決権行使助言基準(日本語版)を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 正 人
Institutional Shareholder Services(以下「ISS」という。)は、2016年1月8日、2016年版日本向け議決権行使助言基準(以下「新基準」という。)を公表した。
ISSは、2015年10月26日にISS議決権行使助言方針(ポリシー)改定に関する日本語のオープンコメントの募集開始をし、その後、同年12月18日にJapan Proxy Voting Guidelines (2016 Benchmark Policy Recommendations)(英語版)が公表された。本書では、日本語版の新基準について改定項目を概説する。
まず、①取締役選任に関する助言基準が改訂され、新基準では、監査役設置会社において株主総会後の取締役会に最低2名の社外取締役がいない場合、経営トップである取締役の選任議案について原則として反対推奨がなされることになった。2015年版日本向け議決権行使助言基準(以下「旧基準」という。)では、最低1名の社外取締役の存在が基準とされていたが、これは複数の社外取締役の導入が促進された傾向を踏まえて改訂がなされたとされる。対象会社に係る上場取引所の区別はなく、また、社外取締役について独立性は問わないとされている。
次に、②買収防衛策の導入及び更新に関する助言基準が改訂され、新基準では、形式審査の項目(1つでも該当しない場合には、原則として反対推奨がなされる。)のうち、(1)取締役会の構成、(2)特別委員会の構成、(3)情報開示に関する事項が改訂された(取締役の任期、買収防衛策の発動水準、有効期限などの他の項目の改訂はない。)。
まず、(1)取締役会の構成について、総会後の取締役会に占める出席率に問題のない独立社外取締役の比率が3分の1以上、かつ2名以上である(旧基準では独立社外取締役の比率が20%以上かつ2名以上)ことが定められた。
次に、(2)特別委員会の構成について、特別委員会の委員全員が出席率に問題のないISSの独立性基準を満たす社外取締役若しくは社外監査役であること(旧基準では社外取締役・社外監査役以外の者の委員就任も許容されていた)が定められた。
さらに、(3)情報開示の方法について、株主が買収防衛策の詳細を検討した上で、経営陣に質問する時間を与えるために、招集通知が総会の4週間前までに証券取引所のウェブサイトに掲載されていることが定められた。旧基準では総会の3週間前までの招集通知発送で足りていたが、新基準では招集通知の校了、印刷、発送の期間を考慮し、総会の28日前までに招集通知を電子的に公表することは総会実務に過度な負担を強いるものではないとして改訂された。
新基準は、2016年2月1日に施行される。
新基準では経営トップに関する取締役選任議案や買収防衛策の導入及び更新に関する議案に関する項目が厳格化されたため、当該事案を提出予定の会社(特に海外機関投資家の株主が多い会社)は注意が必要である。
旧基準と新基準の対照表
株主総会議案 |
旧基準 |
新基準 |
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監査役設置会社取締役選任議案 |
社外取締役1名以上 |
社外取締役2名以上 |
|
買収防衛策の導入及び更新の議案 |
取締役会の構成 |
独立社外取締役の比率が20%以上かつ2名以上 |
独立社外取締役の比率が3分の1以上、かつ2名以上 |
特別委員会の構成 |
委員全員がISSの独立性基準を満たす |
委員全員が出席率に問題のないISSの独立性基準を満たす社外取締役・社外監査役 |
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情報開示の方法 |
総会3週間前までに招集通知を発送 |
総会4週間前までに証券取引所のウェブサイトに招集通知を掲載 |
以 上